~紀伊国屋書店横浜そごう7Fの名も知らぬ店員さんへ~

 「ブルース飲むバカ歌うバカ」という本があります。今だから“あります”と言えますが危うく“ありました”となるところであった本です。著者は吾妻光良さん。「スウィンギン・バッパーズ」という日本ダントツ1位のジャンプ・ブルースバンドのギタリスト(凄い!太い!)にしてヴォーカリスト(凄い!太い!)にしてリーダー(MCも最高!腰が低い!)。ルックスも人柄もプレイも最高。ご存じない方は是非、年に平均3~4回だけ、しかも高円寺のJIROKICHIとかで行われるライブに足を運ばれることをお勧めします。

 その吾妻さんによる本場ブルースマンへのインタヴューや抱腹絶倒のエッセイの数々がぎゅっ!と詰まった一冊、それが「ブルース飲むバカ歌うバカ」。初版発行の1993年からずーーーーっと私、この本を探しておりました。そのままずーーーーっと会えないまま十数年、さすがに絶版だろうとあきらめかけていた一昨年の秋。近所でリハーサルスタジオを営むKさんと談笑中、たまたま話がその本に及んだ途端にKさん、

「えー桜井さん、その本知ってるんですかー!?実は僕、当時出版の仕事をしていて、その本の編集に関わっていたんですよー。」

「マジっすかKさん!俺、本当に探してるんすけどねぇ…。もう見つかんないっすよねぇ。」

「え、僕んちに何冊かあるんで一冊お譲りしますよ。」

「えーーー!まじっすかぁーーー!!!」

 バンドメンバー一同きょとーんではありましたが、縁は異なもの、持つべきはものは友と執念。念願のその書は十数年の思いを全く裏切らない最高にヒップな読み物でした。

 その書が、なんとこのたび復刻されたのであります。大幅に増補され、しかも初版2900円(諸般の事情があったであろうにせよ、これは、高い…)からぐっとお値打ちの1900円(それでも…とは、どうか言わないで)の大盤振る舞い!しかも、あんなに探し求めたマニアック極まりないこの一冊が、ふらりと入った天下の紀伊国屋書店の音楽本コーナーの、すんごい目立つ場所に、ひときわ高く平積みされておるではないですか。

 これには意図を感じました。いくら業界最大手紀伊国屋書店とはいえ明らかな過剰受注(吾妻さん、ごめんなさい!)。並み居るJポップスター達の本を掻き分けての堂々たるセンターへのポジショニング。社会通念に照らして、ありえません(重ねて、ごめんなさい!)。

 まぶたに浮かびます。上司を言いくるめ、営業を丸め込み、汗水流して閉店後のその場所をレイアウトする、アツいブルース魂をもったひとりの書店員の姿が。紀伊国屋というメインストリームを通じて横浜市民にブルース魂を何とかアピールしたいと望む血の通った若き書店員の姿が。

 決して妄想や憶測で言っているわけではありません。確たる思いあっての睨みであります。

 なぜなら、僕は見たのです。先々月、同じ書店の同じコーナーに高々と平積みされたフラワーカンパニーズけいすけ君の詩集を。

 この冬、お客さんの目に最もつきやすいこのスペースを独占しているのが吾妻さんとけいすけ君。長嶋有さんが目撃したら流血せんばかりに唇を噛みしめるであろう光景です。

 絶対、このスジのやつがいるっしょ。紀伊国屋書店横浜そごう7Fに。間違いないっしょ。

 拝啓けいすけ君。

 昨年の渋谷AXでのフラカンワンマンライブにおけるMCでは「会場の物販でしか手に入んないから今日中に買ってくれよー!」と叫んでおられたあなたですが、心配はご無用。横浜では、どセンター平積みだったぜ。それはそれは高々とな。

 敬愛するブルースマンたちに代わって礼を言う。ありがとう、まだ見ぬ魂の書店員よ。会社で肩身が狭くならない程度に、本年もよろしく頼む。




 そういうわけで初版を持っている如何にかかわらず当然に増補改訂版を購入した私。去年の最後に良い買い物をしました。正月はまさに酒呑んでこれ読んでます。「ブルース飲むバカ歌うバカ」を呑んで読むバカ。

 そんなバカは今夜久々に復活する「ビートたけしのお笑いウルトラクイズ」に本気で胸を躍らせています。ハートは中学時分のまま、今年は30代最後の年になります。どうぞ、よろしくお願いいたします。