去る5月6日(日)、キース・ジャレット・トリオat神奈川県民大ホール、行ってまいりました。

 ジャズは疎い私、キース・ジャレットなる人は名前をうっすら知っている程度でしたが、逆にいえば俺でさえ耳にしたことのある高名なジャズ・ピアニスト。さすがの超一流っぷり。音が言語となってスリル満点のトークを繰り広げるトリオ演奏の醍醐味は十二分に堪能できました。世の中にはえらい人がいるものですな。

 ずいぶん長いこと一緒に演奏しているというこのお三方。ステージ袖から板につくまでは一般的おじいちゃんライクよろよろウォーキングなのに、各自持ち場についたしかるのちキースが鍵盤を転がした瞬間、信じられないスピードと精度で精神と肉体のパンチを繰り出しあう。年齢が奪い取ることのできないそれは一体、何だ。何だかわからないそれを「芸」と呼ぶのであるとするならば、果たして「芸」に限界はあるのか。次の日にはそれすなわち「芸」を確かめるこの上ないライブに行った俺です。

 5月7日(月)、文楽太棹・鶴澤清治at国立劇場(大)。

 なんというアダルトな2日間。セレブなチョイス。この点、真心ブラザーズ女子マネージャーWは最近、レッチリとエンケンとピーズの3連チャンでライブに行くのだと鼻息荒くしておるのですが、確かにチョイスとしては彼女のほうがよっぽど男臭く、いやしくもロックバンドでレス・ポールぶら下げて生きる人間ならばレッチリ・エンケン・ピーズ方向で進むべきであるとも思えます。

 しかしながら、俺には俺の感じるところあってそうしているの。セレブは、そうなりたくてなるものでなく、内から湧き出たものの結果なの。先天性セレブ。セレブという言葉の使い方、私、大丈夫でしょうか。

 清治さん、凄かった。

 住大夫師匠、綱大夫師匠との三つ巴による「阿古屋」。のっけから火花散りまくり。キースには悪いけど、昨日のキースと目の前の清治さんを秤にかけちまった俺ですが、はっきり言ってこの時点で清治さんの勝ち。だって、こんなトリオ、ずるいを通り越して、おかしいもの。三味線が空間を切り裂き、太夫が言葉を綴れ織る。生まれる波、巨大化するうねり。押し寄せるビッグ・ウェイブ。誰も奴らを止められねえ。

「阿古屋」が終わって割れんばかりの拍手の中、素直に思ったこと。

「昨日、キースを今日のライブに誘えばよかった。是非、彼にこのライブを観てもらいたい。」

 100年早い戯言と十分承知の上、でも、もしもキースが来てくれたら、きっと大喜びしてくれたと確信する俺なのです。ステージ上にて命のやり取りを生業とする米国最高峰に同業の日本最高峰を案内してあげる俺。途中そのツラを横目で拝む。うーん、贅沢。ハゥドゥユフィール、キース?なんつってね、一面識もないくせにね、キースよばわりでね。

 その後も、義太夫三味線のうまみをぎゅっと濃縮してくれた清治さんアレンジによるメドレーを十数名の手だれ三味線引きがビシィッと合ったアンサンブルで聴かせてくれる。そのメンバーで聴かせてくれる「野崎村」…。その日のメニューはもう、それこそセレブ極まりないものでございました。こういうのを贅沢っちゅうんだな。

 先日星になったロシアのチェリスト・ロストロポーヴィッチの映画を観て感じたことでもあるのですが、「芸」のとあるステージを越えた人たちというのは、舞台上でのド迫力もさることながら、その一方、実にキュートでお茶目で、かわいいとさえいえる面を強く持っていらっしゃる。そこがまた、いい。

 ロストロポーヴィッチ氏は旧ソ連時代から婦人と共に激烈な音楽人生を歩んできた人。映画は彼の人生を振り返りつつ、氏を囲むパーティーの模様を随所にちりばめる。その席で彼はあのエリツィン氏の肩を抱き大学生のようにかかかと高笑い。かと思えばヨーロッパのどっかの王妃様の手をとって踊る踊る。

 一方、神奈川県民ホールにおいては興が乗ると立ち上がって首をふりふりピアノを弾くキース。小柄な体格もあいまってノればノる程操り人形状態に。その場で浮かんだと思われるフレーズを口にしながら弾きまくるのですが、声が間寛平師匠そっくりで、「かいーの」をジャズで歌っている的かわいさに数度、いとしくてのけぞりました。

 そして清治GOD師匠。

 その日の公演パンフレットで原稿を書かせていただいたこともあり終演後にご挨拶に伺ったところ、まあ気さくで笑顔の柔らかく実に楽しいお人柄でしたこと。歴史的ライブの直後ということもあり、背中からはまだアツアツの天才オーラが湯気を立てていたもので、そんな気さくさとのギャップに秀俊、久々に人と会って全身に鳥肌が立ち申した。いや、参りました。

 音楽がくれるわくわくヴァイブを、どんな境地に辿り着いてもフレッシュに再生できる凄さ。丸出しの愛。みなさん、さすがですわ。

俺も頑張らねばとふんどしを締めなおし、なお制作活動にいそしむ中、行ってまいりました。

 5月10日(木)Yo-King at横浜Club24.

 ツアー続行中ということで内容については控えさせていただきますが、恐るべしでした。

 何が恐るべしだって、MCにおいて40を目前にして己のかっこよさがまたしても大変なことになっているといった内容のことをとくとくと語るのみならずライブの終盤、「オレ、かわいい」発言が飛び出したのですから。

 奇しくも最近、地球を代表する男たちの「かわいさ」について感銘を受け、彼らの爪のアカを煎じてかわいさサプリ摂取してえぜと願っていた矢先の俺の眼前で、

「オレはもう、自分のかわいさを受け入れられるようになった。」

 高らかに宣言している。

 俺は、ビールを呑みました。




 これは、出し抜かれたということなのでしょうか。