去る日曜の午後。チャリでその辺をぷらぷらしておったところK公園の野球場で熱戦中の子供達を発見。両チームともきちんとしたユニフォーム着用、怖そうな監督、多数のコーチのおっさん、主審に線審までいる本格的なThe少年野球。大事な試合らしく、小さな球場は晴れた5月の午後に似つかわしからぬ緊迫した空気。以前は現役のヤンキーであったと思われる金髪お母様方の怒号、失敬、声援にも並々ならぬ熱がこめられており、私としましては迷わず、

「覗いてくか。」

 と。

 キッズたちの真剣な姿勢は胸を撃つ面白さであり、あっというまにフェンスに顔を食い込ませんばかりに引き込まれている俺。

 と。

 突然耳に飛び込んできたあまりにも親しんだメロディー。私、軽くのけぞりました。

 攻撃側の子供達が一斉に「どかーん」を歌いだしたのです。

 草野球でおなじみの「ピーっチャーぁ剛球」「剛球!」「剛球ピッチャー○○、ピッチャーピッチャーピッチャーピッチャー剛球ピッチャー」「○○!!」なる応援コールや、「バッターびびってる!」「ヘイヘイヘイ」「バッターびびってる!」「ヘイヘイヘイ」「びびってる!」「ヘイ!」「びびってる!」「ヘイ!」「バッターびびってる!!」なる野次コールに並んで、真心ブラザーズの「どかーん」が。当該バンドメンバーとしてはやはり、のけぞります。

チームの誰かが「どかーんと一発」と歌いだすのを合図に他のチームメイトがその後に続くのが作法らしいのですが、皆が歌いだしてからの歌詞に独自のアレンジが加えてあり、メンバーとしては当然どのようにアレンジされておるのか非常に気になるところであります。ところが彼らの目的は歌を誰かに伝えるところにあらず、なるべく大きい声をだして味方を鼓舞するところにあり、したがって何言ってるかさっぱりわからぬほどに発音がテキトーであり…。メンバーとしてはどうにも歯がゆさを禁じえないわけで。

 試合終了後、トイレに向かう野球少年のひとりに思わず、

「あの歌、なんて言ってんの?」

 と、問いかけている俺。彼にしてみれば自転車に乗った見ず知らずの暇そうなおっさんに突然ヘンな質問をされて、さぞかし怖かったことでしょう。坊主、すまなんだ。くれぐれも、お家の方には報告するなよ。

 彼曰く、

“どかーんと一発やってみようよ

  死ぬ気のままで打ちまくれ”

 と歌っているとのこと。

 “死に物狂いの明るさで”という「ポジティブ」なる概念についての珠玉の表現は彼らにはまだ早すぎたか。“死ぬ気のままで”とはいったいどういった状態かいまひとつつかめませんが、まあ、そういったことは言いっこなしですか。うまい言い方でないところがかえって程よいキッズ加減をかもし出しており、「とにかくなにがなんでも打ってこい!」という気迫を伝えることに成功しています。

 彼から、次の日曜には今度はU公園で試合があるという情報を得ました。なぜにそんな情報を欲しがったか。

 こっそり録音してやろうかと。

 高校野球の応援で各校のブラスバンドによりこの曲が演奏されているのは、有名を通り越してもはや国民の常識となっているところ。ここまで自分たちのバンドの手を離れて広く愛されている楽曲は他にありません。ならばどこまで曲が旅をしているのかを記録するのも、メンバーといたしましては、務めではないかと思い至った次第。

 といいますか、「勝手に“どかーん”トリビュート」って、面白いのではないか、と。

 「横浜市神奈川区片倉イーグルス(仮名)ヴァージョン」や「‘08年夏の甲子園大会決勝にて8回裏バッターボックスに入った○○高校4番××くんが逆転ホームランを打ったときのアルプススタンド三塁側○○高校ブラスバンド部ヴァージョン」とか、はたまた「真心ブラザーズ母校・早稲田大学応援部at神宮球場ヴァージョン」とか。いちいち俺がレコーダーとマイクとヘッドフォンをぶら下げてスタンドで直接レコーディングするの。2~3年しこしこ集めて、テイクがたまったらアルバム作れるんじゃないかな。

 どうですか、「どかーんトリビュート」。だめですか。そんなに欲しかないですか。いらないですか。そうですか。

 ううむ。

 だとしたらますます、そんなものが存在する面白さはアップする気が。

 「そんなもん作る暇あったら、もっと他にやることあるだろう!」

 そんなお叱りの声が聞こえてくるようです。

 ううむ、だとしたらますます…。