おったまげただよ。

 本日は大掃除で朝からやれ窓ふきだ雨戸だ雑草むしりだなんのかんのとぐわんばっていたら、普段殆ど足を踏み入れない裏の軒下に、ぬあんとスズメバチの巣が!人の頭ほどの大きさのがぶらんと、逆さ生首よろしくぶら下がっているじゃあありませんか!

 ひゃああと叫びつつ区役所へ電話。

「あのおすんません、家のですね、はい、自宅です。の、軒下にですね、スズメバチの巣がですね、ありまして。駆除をお願いしたいんですけど…。」

「それ、いんの?」

「いんの…といいますと?」

「中に、蜂。いんの?」

「………。」

 当然ながら見ず知らずの区役所職員の、宇多田ヒカルもびっくりな友達以上に距離を縮めた物言いに、最初の2秒は今何が起こったのか理解できず、次の瞬間怒りのマグマが怒涛の如く腹の底からこみ上げ、

「おい、小役人。『いんの?』て誰に口きいてんだお前。お前、何課の誰だ、名前言え名前。困ってる区民の相談に乗るのはお前の大事な業務だろ。蜂が巣の中にいるのかどうか確かめることができたらお前のとこになんか電話するわけねえだろ。蜂が一匹もいないと完全に言い切ることができると確認したしかるのちに俺が役所に『空っぽの蜂の巣があるんですけど、どけてください』と頼んでると思ってんのか?頭、大丈夫か?決して区民税、安くないよ?任務懈怠もいいとこだろ、お前、給料貰うな、メシ食うな、メシ!『俺の存在を~♪頭から否定してくれぃ~♪』」

 と、そのまま受話器越しに危うく“イヌ”の名曲「メシ喰うな」を熱唱するところでした。

 しかしながら一地方都市の一小役人ごときにここ一番の怒りパワーを浪費したところで、いたずらに己のケツの穴を小さくしてしまうのみ。怒りというものは、もっともっと大事な局面で、ヤマトの波動砲のごとく全生命をかけて噴射すべきもの。ここでキれては怒りのインフレを引き起こし、ひいては秀俊、単なる近所のカリカリおじさんに成り下がるところでした。

 神様、あんた油断できないね。いつも不意に仕掛けてくる“男試しトラップ”、今回はおそるおそるのクリヤーでしたよ。

 丁重に穏便に、きちんと話のできる生活課の方に替わってもらい伺ったところ、この時期に巣から蜂が頻繁に出入りしていなければ、その巣はほぼ、空であるとのこと。それでも不安であるなら有料になるが駆除に赴くことは出来るという説明をうけました。

 ほぼ空なら、わざわざプロを呼ぶほどのこともないっちゃあないですが、そうはいっても素人が自力で逆さ生首を処理するには、それなりの度胸を用意する必要があります。なにしろ俺の中のスズメバチは“みつばちハッチ”の、あの巨大で恐ろしい空飛ぶ戦闘員のイメージで揺るぐことなく固定されているのですから。

 万一、万一、一匹でも戦闘員が残っていたら、そりゃ大変ですもの。ハッチ、ひとたまりもないもの。なので、たとえ戦闘員が残っていたとしてもおそらく彼らが良い仕事が出来ないであろうとびきり寒い日、たとえば今シーズン最大の雪の日にでも、大除去作戦を決行することにいたします。その日まで、戦闘服や作戦の段取りについて練りに練っておかなくては。ハッチ、頑張る。

 いやあしかし、野良猫だのスズメバチだの、俺んちは動物にも昆虫にも人気があるね。あってもね。




 おったまげたといえばもうひとつ。

 先日、「Dazzling Sounds Tour」中野サンプラザ公演のビデオをみて、おら、てめえのことながらひっくりかえっただよ。

 あまりの自分の姿の異様さに。

 実は、ツアー中はあえてライブのビデオを観て弱点を修正する等の行為は避けていたのです。ヘンに自分を客観視して研究なんてして、パフォーマンスにいやらしさが混ざるのを恐れて。

 あの場は、曲に行く前にさんざんYo-Kingさんに追い込まれるだけ追い込まれて、その場だけに全てをかけて爆発すべきだと考えていたのです。そしてその考えは決して間違ってはいなかったと、今でも思います。

 しかしながら。

 そうやって一公演一公演できるかぎりの爆発を重ねて言った結果。

 ブラウン管の中の自分の、自分で想像していた以上の凄さに、

「これは…。」

 と、リビングでひとり、芋焼酎のお湯割を片手に、あとずさりしていたのでした。

 「Dazzling Sounds Tour」にお越しいただいた全てのみなさま、あのとき、そう“Baby Baby Baby”を熱唱したとき、そして熱唱し終わったときの各会場でのあのおかしな盛り上がりの意味が、正直、ツアーの最中の僕にはわかりませんでした。

「まあ、普段ギターしょってる奴がワイヤレスのハンドマイクを持って歌えばものめずらしいわな。にしても、そこまでウケなくても…。」

 と、全く事情を把握できてなかったのです。なぜなら、あの場で俺の姿を直接観ることが出来ない人間は、あの場で俺しかいなかったのだから。

 ビデオは、おそらくPA席の横にでも三脚を置いて固定で録ったのであろう、ズーム等一切なしの引きの画オンリー。舞台の照明でメンバーの顔はハレーションで飛んでいるぐらいの低クオリティーのものです。

 それでも、あのコーナーの俺は、防犯カメラが捕らえた幻の生物!てな迫力でした。たった今UFOから降りてきたハイテンション宇宙人の映像、とか。そんなの。

 あれは本当に、俺なのでしょうか。

 そして、本当にあれが俺だとするならば、俺はどこへ行くのでしょうか。

 “Baby Baby Baby”を歌ったあとはいつも“明日も愛しあえるかい”というバラードの曲を演奏しました。そのときの各会場での包み込むような静けさに、

「あー、みんな、入り込んで聴いてくれて嬉しいなー。」

 と思って感激していたものです。

 しかし、中野の会場に来ていた妻は言いました。

「違うよー。あれは前の曲が凄すぎてみんな次の曲についてこられなかった『シーーーーン』だよー。ハンドマイク、あたしも笑ったー。バラードなんて全っ然ついていけなかったもん。」

 バラードの俺は今年の言葉でいうところのKYであったと。妻よ、そうであったというのか。

 いかん。まったく気づいておらなんだ。

 それはとりもなおさず、テンションを上げすぎて状況判断能力を著しく欠いていたということであり。それはなんか、とっても素人っぽいニュアンスに満ち溢れており…。




 今年の年越しはロサンゼルス出張ドタキャン事件でヘタ打ってもうた中田宏横浜市長ともども、課題を残したものになりそうです。

 大晦日はダウンタウン観て、正月はTVKのロックレジェンドを観て、ずーっとテレビの前で酒呑んでひとまず課題を忘れようと思いますが、いやいや課題を克服してこそのネクスト・ステップ。

 明けて2008年からは更なる飛躍をお約束しますので、皆さまなにとぞお付き合いのほどを。飛躍した先の着地点が設定できていないところがいささか不安ではありますが。

 なんにせよみなさま、今年も本当にありがとうございました。

 どうかどうか、良いお年を。