野郎呑み会というのは盛り上がるもんです。
先日も男4人で主になっち、すなわち安部なつみさんのとある写真集の話題で沸騰しました。
ちょいと前の写真集らしいのですが、なっちの故郷である北海道を訪ねつつロケしつつといった趣向の一冊らしいの。
呑み会メンバーの一人である若手前途有望カメラマンがその写真集を撮影したカメラマンのファンらしく、その素晴らしさについてとうとうと語る。もうひとりのメンバー(デザイナー。俺の自慢のエロ名刺を作ってくれた男)がそのカメラマンと幾度か仕事をしたことがあるらしく、被写体への愛に溢れた彼のアガリを絶賛する。数十回とそのカメラマンの名前を耳にしていたのに、今、全く思い出せない俺。沸騰しているのに、流れてゆく。ああ、呑み会トーク。
もうひとりのメンバーがなんとスタイリストとしてその写真集の撮影の旅に同行したことが判明。曰く、
「なっちが高校の頃から学校帰りに寄ってたっていうさ、ラーメン屋に入ったのよ。普つ通ーのラーメン屋なんだけどさ、そこで懐かしそうにラーメンすするなっちがもう、かっっわいくてさあ!俺なんかもう、いや、俺だけじゃなかったね、男スタッフ全員、なっちのこと好きになっちゃったもん。ファンになったとかじゃないよ。もう、恋しちゃったもん。全員。雪の北海道で。」
すかさず若手前途有望カメラマン、
「そういう写真だった!そのラーメンのカット、着てる服もぶっ飛んでんだけどかわいかったよ。ありゃお前、いい仕事してたよ!」
カメラマンの名前も写真集のタイトルもキレイに忘れて次の日の朝、正確には昼の目覚めを迎えた俺。
だけど、しっかりその集団恋愛状態の感触だけは覚えていた俺。
俺もその一員になりたい。ならずにはいられない。なっちに……逢いたい。
そういうわけで街へ繰り出しました。なっちを求めて。
若手前途有望カメラマンはアマゾンで200円ぐらいで買ったそうです。
しかし俺は、街で逢いたかった。なっちと。
渋谷の本屋を数件巡る。いずれもベトナムだかに行ったというふれこみの最新作の写真集。違う。俺が探しているのは彼女の故郷なのさ。素顔以上の表情を欲しているのさ。
数時間東京をさまよって、それらしき物件を中目黒のブックオフにて発見。お値段500円なり。レジの店員はかわいかったけど、なにくそ素顔以上のなっちに勝るものかとぐっと差し出し「くださいな」と。ブックオフのレジ袋は薄い黄色で中身が丸見え。レモン色のなっちを衆目にさらして東横線で堂々と凱旋いたしました。
それにしてもいいもんですな。足を使って欲しいものを探すというのは。
このインターネット時代、そりゃアマゾンでちょちょいと注文するほうが時間もカネも節約できるってもんです。確かにそうですが、自分の欲しいものに向かって己の足で歩みを進めるということは、興味の対象に近いものへの出会いを授かるということ。そしてそれは、街という現実感のカタマリの中でその興味の対象がいかに機能してくれているかを教えてくれる。
例えば、ブリが食いたくなる。この時期のブリは格別だ。そのブリがいきなり「へいお待ち!」とキレイな刺身になってどんと出てくりゃ、そりゃ旨いし手っ取り早かろう。しかしながら少年よ、真冬の海に船を出して自分の手で釣ったブリは、前者のブリの数十倍の美味しさと豊かさを保証してくれるに違いないのさ。Baby、ブリを食ったら海を感じようぜ。
今回の“なっちを探して東京航海”も、ひょいと入ったCD屋や、本屋の別コーナーにて思わぬサイド・ハーベストを数点得ました。
各方面で大絶賛のレディオヘッドの新作。確かにまあイイんだけどやっぱり今回もぬぐえぬ違和感。それは世界のツボと自分とのズレを表象するひとつの重要なサンプルであり、これはきちんと考えないとなあ…と思ったりとか。デジタルリマスターされたドアーズの1stを聴いて、アナログ時代には聴き取れなかったあのリバーブの音像に改めて脱帽したりとか。大人になって読む漱石はめちゃくちゃイイ!とか。
なっちを求めてこれだけの収穫。クリックひとつで気が済んでいたら、決して味わえなかったものを存外に堪能できた喜び。
少年よ、サイバーは別に捨てなくてもいいけど、なんせ街に出よ。
そして、満を持して真打ち、なっちをご開帳。
胸を躍らせてページをめくると、いきなり真っ赤なビキニが。更にめくるとプールで戯れるなっちが。
これは、冬の北海道では、ない。すなわち、これは俺の求める写真集では、なかったと。秀俊、違うの買ってたと。
旅は、まだ終わらないんだね。