黄金週間も本番に入ろうかという5月4日、スカーっと財布を落としちまいました。

 その日は大阪にてNHKさんにお呼ばれしての公開録画ライブ業務。

 午前11時。新横浜駅のホームにて今まさにおいらが乗らんとする、乗って大阪に行くべきのぞみ号が、ホームに滑りこみつつあるタイミングで気がついてしまったのです。がっしがっしと全身及び荷物全般を確認して悟ってしまったのです。

「ありゃ、財布、ないわ。」と。

 逆境を認識する我が脳ミソ。滑りこむのぞみ号を眺めながら全神経を集中して16倍速のプレイバック。

 駅のロータリーでタクシーを降りた。金は払った。つまりその時点で財布はあった。降りるときに一応タクシー後部座席は目視して確認はした。今、どこ探しても無い。つまり、ロータリーからホームまでの数十メートルの間に必ずブツは落っこちている。ダッシュで探し戻れば取り戻せる可能性は高い。今ならば。しかし…。

 滑りこんでぷしゅーっと止まったのぞみ号を無視してロータリーまで戻ることは、出来ませんでした。社会人として。

 かくしてひとまず電車に乗り込みNHKさんが用意してくれた豪華グリーン席への着席もままならず、デッキにて一縷の望みを託してタクシー会社に電話。しかし無情にも、

「無線でお客様が乗られた車両に確認したんですがねえ、どこ探してもないそうです。はい。ではぁ。ツー……。」

 そこからはもうブルー。

 各種金融機関に連絡してカード類のストップ作業および警察への届け出。走行音の激しい新幹線車内のため、今いちばん触れたくない事項をことさら大きい声をだして「あの、財布をぉ!落としちゃいましてぇ!」と人に、正確に伝え自分の傷口に、塩を塗らなければいけない始末。

 一通り事務作業を終えてグリーン席に戻る。ふかふかなシートでポッケに残されたコインを確認すれば400と5円。我が国で“黄金”と銘打たれたこのひとときに、エクゼプティブなシートに沈んで405円で過ごさざるを得なくなった39歳の五月。光る硬貨を眺めながら、心にストリート・スライダースの名曲が流れます。

「最後のコインで何を買えるのさ。」

 そう、タイトルは「野良犬にさえなれない」でした。

 とにもかくにもブルー極まりないまま、業務をもちろん全力で終え、NHKさまが用意してくださった宿へ。それが。

 ホテル・ニューオータニ。

 しかも、クイーンサイズのダブル。眼前には大阪城天守閣。

 早速ワインにルームサービスでパーティーを開始せよ!というメッセージを部屋が、景色が、ムードが放つ。しかし。

 俺の予算すなわち100円玉4枚と5円玉1枚じゃ、冷蔵庫の缶ビールさえも開ける資格に満たないわけで。そうはいってもこの部屋は一人でいるにはあまりにも広く美しく。再びあのメロディーが。

「最後のダンスは誰と踊ろうか。」

 その日競馬で8万円負けたという真心ブラザーズマネージャーK山氏に1万円を借りて、一郎君と部屋呑みしました。大阪城の夜景を肴に、いつかの中野サンプラザのように。

 ありがとうK山氏、そして一郎君。お金も友人も、大事だね。状況に押しつぶされそうな時、差し伸べてくれる手というものを俺は感じたよ。大阪城のライトアップが消えるまで「いいちこ」呑んでやったよ。




 黄金週間も終わり、今は一万円札を手渡した際のK山氏の言葉だけが少しだけ引っかかっています。冗談だと信じてはいますが、相手は競馬で八万円をスったばかりの人間。曰く、

「利子はトイチ(十日で一割の意味か)ね!」

 それは、複利計算ですか?