コクーン歌舞伎「佐倉義民傳」を観劇してまいりました。中村勘三郎・七之助父子に橋之助、坂東彌十郎さんに笹野高史さん等々そうそうたる役者ぞろい。常日頃から民百姓のために身を粉にして働いてきた名主が、圧政に耐えかねお殿様を飛び越えて将軍に直訴に行ったという事件をもとにしたお話。

 筋はまあそういったところで極めてシンプルなのですが、見どころはなんといってもラップ。歌舞伎にラップ。そんなんありですか。そんなんありにしちゃうところが歌舞伎という芸能だということですか。これは、どうなるか見届けないと。

 聞けばラップの作詞と監修はいとうせいこうさんだとか。ちょうどいとうさんに渡したいものがあったので、どこにいるのかなーとぐるーっと会場を見渡したら目の前の席に座っておりました。なんたる偶然。お宅に尋ねても会えなかったりするのに、会える時は会えるんですね。おかげでちょいちょい解説を頂きながらの観劇。贅沢な副音声付きで楽しませていただきましたよ。

 客席と舞台の間の左右に御簾が設けられ、下手には太鼓と笛そして上手にはなんとDJセットにパーカッションにエレキギターが配されておる!オーケストラピットのLとRで元禄と平成がジャムるって寸法かい!こいつぁ粋じゃねえか。そして本日のメインディッシュ。ラップをするのは主に百姓の若者たち。すなわち社会の最底辺のヤングによる叫びという、プロテストソングとしてのラップ。なるほどせいこうさん、この一点からの突破で勝ちがみえたのですね。兄さん、さすがですな。しかし、ラップシーンのメインを張るふとっちょと小男の2人組、どこかで見覚えが…。あれは、もしかして…。大至急兄さんに確認。

 やはり。まごうことなきMC.IKKUさんそして小市民ラッパーことMC.TOMフロムSHO-GUNGバイ「SRサイタマノラッパー」!!!!!

 こんなところで初めて生の彼らを目撃できようとは。生の声を拝聴できようとは。あの感動のラストシーン。サイタマはフクヤ市の小さな焼肉屋でライムを紡いでいた彼らが、渋谷は文化村のシアターコクーンという大舞台で並みいる歌舞伎役者を従えて堂々とラップしまくっている!韻を踏む箇所で橋之助を、彌十郎を、七之助をガヤに回らせて…。泥にまみれた百姓姿の彼らはサイタマ魂で存分に暴れまわり、千葉県佐倉市が舞台のこの物語が途中から俺には埼玉県の山奥に、すなわち秩父事件に見えてきましたよ。いやあ皆さん、サクセスされましたなあ…。映画のパート2も公開されましたか。楽しみにしておりますよ!

 新しいものを取り入れたつもりが上っ面をなでただけの結果に陥り観る者全員がこそばゆくなってしまう、これは最悪の事態。そうならなかったのはひとえに古典芸能とポップミュージックを等しく愛し、同じ消化器官で両者を咀嚼することのできる稀有な人間・いとうせいこうの力といってよいでしょう。「社会の最底辺の者たちの叫びの物語である以上、2010年の舞台表現なら歌唱においてはラップを採用することが最も自然である」と、すんなり説得されてしまいます。脱帽。カーテンコールで客席からせいこうさんを呼び出し、舞台に上げ、握手を求める勘三郎さんの姿が印象的でした。そりゃ求めるよな、握手。スタンディングオベイションの波の中で、あたくしはそう思いましたよ。良い仕事をされましたなあ、兄さん。




 毎度毎度、優れた表現には助けられます。それを味わう以前より世界がもっと愉しいところに見えるから。




 MC.Sakuさんもいい加減油売っている場合じゃないですなぁ。