anatatodokokahe 日産TEANAという車のオフィシャルサイト内で発信されていた8人の作家が書き下ろした、ドライブや車を感じさせるショートストーリー集。


『時速四十キロで未来へ向かう』は角田光代の作品。
主人公は二ヶ月前に会社を辞め、部屋にひきこもっている女である。
ほんの二ヶ月前までは、派遣社員として出向した広告代理店で契約社員として働いていた。
毎日それなりにおしゃれをして通勤し、週に2回はスポーツクラブへ行ったり恋人とデートをしたり女友達と流行のレストランへ行ったりとOL生活を楽しんでいた。
ところが、ブレーカーが落ちたように突然全てが落ちてしまった。
何もする気がしなくなったのだ。
何もかもが嫌になり、女は自宅で時を過ごすようになった。
理由は明確だった。

失恋である。
正月も自宅で過ごしてしまった女を、弟が尋ねてくる。
外には出たくないという女に「彼女とのデートの下見の為にドライブに付き合ってくれ」と言うのだ。
嫌だと言ってもなんともならず、止む無く女はドライブに付き合うことに。
ずいぶんと豪華な青い車で、弟と走り出した。
車中では思い出話に花が咲き、流れる景色を見ていたら、女は涙が止まらなくなってしまった。
弟に思いかけず癒されてしまった女のせつなさを描く。

ドライブや車というのは思い出に直結していると思う。
昔の恋人と訪れた場所に、新しい恋人と行くというのはなんとなくせつなさと繋がる。
一瞬、その時を思い出してしまったりもする。
車をテーマにするというのはなかなかステキなことだと思った。


その他、吉田修一・石田衣良・甘糟りり子・川村弘美といった人気作家の作品を手軽に読める。
私はこういったアンソロジーと呼ばれる類のものをよく読む。
そこで新しい作家に触れ、作家を開拓している。
今回は石田衣良の作品が初めてだった。
本書に収録されている短編『本を読む旅』はなかなかステキな物語で、同じような旅をしたいと思わされた作品だった。
感触はよかったが、著者の出版されている作品のラインナップにどうも魅力を感じず手が出ない。


<文藝春秋 2005年>


片岡 義男, 甘糟 りり子, 林 望, 谷村 志穂, 角田 光代, 石田 衣良, 吉田 修一, 川上 弘美

あなたと、どこかへ。 eight short stories