hardluck 死をテーマに描く二つの癒しの物語集。
奈良美智の装丁や挿絵も物語を印象付ける。


旅先で死んだ女友達を思い起こす奇妙な夜を描く『ハードボイルド』と、脳出血で入院中の姉の存在を通して、自分や家族や姉の周囲で生きた人間の心を知る『ハードラック』の2話が収録されている。

『ハードラック』の主人公〝私〟の姉は、脳出血で入院して1ヶ月になる。
沢山の管に繋がれ、自発呼吸をしなくなった。
少しずつ脳幹が機能を失っていったのだ。
いつか脳死が判定され、呼吸器を外す時を待つしかない日々だった。
結婚退職の為に詰めて仕事をし、徹夜続きの或る日倒れた姉。
フィアンセはショックを受けて故郷に引き返してしまった。
母親は今にも崩れそうな状態だ。
父も気丈に振舞っているが元気な訳はなかった。
そして〝私〟も、抜け殻のようだった。
けれど、1ヶ月経過して姉の容態がこれ以上よくなることはないとわかり、中断していたイタリア留学の準備を再び始める。
そんな姉を頻繁に見舞うのが境くんで、彼は姉のフィアンセの兄だった。
故郷に引き返してしまった弟の代わりだと思っているのか、こまめに足を運んでくる。
一風変わった風貌と不思議な雰囲気を持った彼に惹かれる〝私〟。
彼と話していると、とても落着く気がしてくる。
やがて、姉の死が訪れる。
永遠にやってこない、一度きりの今年の秋を見送る日がやってくる。


身近な人間の死をテーマにした吉本ばなな作品は多い。
その中でも、さっぱりと読めるタイプの本だと思う。
霊や夢で何かを予知したり、感じるといった経験が全く無い私には感情移入しきれないところがあるのは否めないが、吉本ばななの書く透明感のある文章や、やさしい空気感に惹かれていつも読んでいるのだ。
本書も、心をろ過してくれるような文章が続く癒しの1冊だと思った。


<ロッキング・オン 1999年>


著者: 吉本 ばなな
タイトル: ハードボイルド/ハードラック (単行本)

著者: 吉本 ばなな
タイトル: ハードボイルド/ハードラック (文庫)