角田光代は最近話題になることが多い女性作家だと思う。
書店店頭でも平積みを横目で見ながら、なぜか手に取ることがなかった。
そんな時、知人から借りたのがこの『庭の桜、隣の犬』だった。

よくある、普通の人生を歩む房子と宗二は30代の夫婦。子供はいない。
極々普通の二人の生活は、宗二の母親や個性的な同僚レミの存在、ちょっとしたハプニングによって揺れていく。

なんとなく結婚した二人。二人は結婚に強い思いもなかったかのように感じた。結婚の意味がわからない二人。
そんなものだからと結婚して、そんなものだからと親の援助でマンションを買い、そんなものだからと生活を共にしてきた二人の「未熟」さ。
何もかも満たされ、特に不満もなくハングリーさの欠片もなく中流家庭で育った二人は、或る日気付く。
強い思いで築き上げた何かが存在しないと。
二人の家庭のはずが、その家庭すら自分たちのモノでは無いと感じてくる。
夫婦ってなんだろう?心にある厄介な何かを抱えて、自分たちははどこへ向かうのだろう?何が答えなんだろう?
二人は彷徨っていく。

読み終えて、とても満足していた。
私が思っていること、私が普段感じることに近く、シンパシーを感じた。
私も、この夫婦と同じように、一体何が答えなのか、何を築いてきたのか、どこが本当の居場所なのかと悩むことがある。
ちょっと変わった、でも生々しい家族の肖像が詰まった1冊。この1冊で、何かが見えるかもしれない。
そして私は小さな何かを見つけられた気がしている。

<講談社 2004年>

著者: 角田 光代
タイトル: 庭の桜、隣の犬