私の好きな乃南アサが表現されてた、7つの物語詰まった短編集。
表題作のように冬をテーマにしたものから、梅雨・台風・残暑など日本の四季が人間の心を狂気にかりたてていくさまがうまく描かれている。

「指定席」は津村弘という、中肉中背で本当に普通の特徴の無い男性が主人公。
会社の同僚にも特に強い印象を与えず、何度会っても忘れてしまうような存在が津村だった。
遅刻もせず、残業もせず、毎日を淡々と送る。時々心で毒づきながら、おとなしく過ごしている。周りからは勝手に倹約家と思われる程、服装も構わない。これといった趣味も無く、酒もタバコもギャンブルもしない。就職してからずっと同じアパートに住み、独身という背景から、勝手に貯蓄に励んでいると思われるような地味な男だ。
そんな津村の毎日の楽しみは近所のコーヒーショップ〝檀〟での1杯のコーヒーと読書の時間だった。津村は通ううちに勤めるウェイトレスが気になっていった。
いつもカウンターの右端の指定席に案内してくれるウェイトレス。
そうやって穏やかな毎日を営んでいた津村の生活に少しずつズレが生じてくる。
最後に露見される津村の本当の顔とは・・・

季節の風景と人間関係を絡ませて、小さな心のズレが生じた男女の日々が描かれている心理サスペンスだ。
背中にゾクゾクと迫ってくるような恐怖を味わえる。
乃南アサ作品は、心理描写に長けており、短編は読んでいる人の想像を深く深く掘り下げてくれる物語が多く、臨場感溢れると思う。その代表作とも言えるのではないだろうか。

<幻冬舎文庫 2000年>

著者: 乃南 アサ
タイトル: 悪魔の羽根