今週のボリショイ・バレエは「現代の英雄」。
19世紀ロシアの軍人、詩人レーモントルフの作品「現代の英雄」から「ベラ」「タマーン」「公爵令嬢メリー」三篇をバレエ化した作品。初演は2015年7月、配信されたのは、2017年4月のボリショイ・シネマの映像。ほぼ初演のキャストを再現しています。


予習無しだとちょっと分かりづらいストーリー。
一言で片付けるなら、青年将校ペチョーリンのコーカサスや南ロシアでの女性遍歴。手に入り難い女性は追い回すけど、相手がペチョーリンに身を委ねると「俺が探していたのはこれじゃない」と言わんばかりにポイ捨て。19世紀ロシアあるあるな拗らせキャラで、エフゲニー・オネーギンをさらに粗野にして女性の敵にした感じ。
ペチョーリンの矛盾した行動を表現するため、幕ごとに違うダンサーがペチョーリンを踊ります。「ベラ」はイーゴリ・ツヴィルコ、「タマーン」はアルチョム・オフチャレンコ、「公爵令嬢メリー」はルスラン・スクヴォルツォフ。3人ともテクニックは揺るぎないけど、ツヴィルコは粗野でマッチョ、オフチャレンコは気障で美しい踊りが際立ち、ルスランは心情表現の上手さが踊りと一体になっていると思いました。

「ベラ」
異教徒の美女ベラを誘拐し、口説く。ベラは次第に心を許すが、ペチョーリンは冷たくなりベラは傷つきながら死んでいく。


グルジアの民族衣装を来た男性の群舞が、異様に格好良いです。ベラのオルガ・スミルノワは、目力とバランスが凄い。ペチョーリンに心を開けて行くにつれ、クラシックなバレエの動きになっていく。

「タマーン」
小さな港タマーニに配属されたペチョーリン。少女ウンジーナに惹かれるが、彼女は密輸団の一員で、ペチョーリンは危うく殺されそうになる。


ウンジーナのエカテリーナ・シプーリナは、大柄な金髪美女で、姐ごっぷりが男前でした。ペチョーリンを誘惑する時、真っ赤なチュチュで「白鳥の湖」をなぞるような動きを見せるのが、色っぽかった。
華奢で小柄なオフチャレンコとロパーティン(密輸団の頭、ウンジーナの情夫と思われる)は、踊りが美しくて、ストーリーを忘れ思わず目がいく。2人が、シプーリナの大っきな体をリフトするのは、ちょっとスリルでした。
密輸団の踊りが迫力。

「公爵令嬢メリー」
ピャチゴルスクの保養所。旧友グルシニーツキー(デニス・サヴィン)は、負傷を装って公爵令嬢メリーの気を引く。グルシニーツキーの恋心を知りながら、ペチョーリンは公爵令嬢メリーを誘惑。元恋人の伯爵夫人ヴェーラ(クリスティーナ・クレトワ)とも再会し、関係を重ねる。嫉妬に苦しんだグルシニーツキーは、ペチョーリンに決闘を挑み、グルシニーツキーが敗れ死んでしまう。ペチョーリンは、メリーを愛していないと告げ、彼女を置き去りにする。


ルスランは、ちょっと前までは八の字眉の良い人感が強かったけど、いつの間に演技派になったのかな? 踊りは端正だけど、このややこしいペチョーリンのキャラクターを一番掴んでいると思いました。彼の「オネーギン」が良いと噂に聞きましたが、想像出来ます。
ザハロワの令嬢メリーは、ひたすら美しいです。クレトワは、気だるげな人妻感がすごく嵌まってました。グルシニーツキーのサヴィンが、情熱的。やはり、演劇的な役柄は良い、目を引きます。
保養所で過ごす軍人さんと、白いドレスのお嬢さん方が踊る踊る踊る。19世紀ロシア文学の恋は、舞踏会で始まり、深まっていく、そのままの躍動感。

振付は、昔、超美青年ダンサーだったユーリー・ポソホフ。クラシック・バレエをベースにした難リフトのパ・ド・ドゥで見せるドラマチック・バレエの系列。
イリア・デムツキーの音楽が、とても良かった。歌手の使い方が印象的。舞台に登場したサクソフォーンやチェロのソロも、渋くて聞き応えありました。

原作は未読、読んでみようかな。


映像化されてるのね。

現代の英雄 [DVD]現代の英雄 [DVD]
9,100円
Amazon