松坂桃李くん主演、吉田鋼太郎さん演出の「ヘンリー五世」を見たのですが、感想を書く時間が全くなく放置していました。
蜷川幸雄さんの後継として彩の国シェイクスピアシリーズを演出している吉田鋼太郎さん。蜷川さんより活劇的で、分かりやすさを重視しているのかなぁという印象でした。役者さんも全体的に若返り、舞台や客席を怒濤の勢いで走り回ります。

若くして王冠の重みや戦いの大義に葛藤し、それでも戦意高揚へ向かっていくヘンリー五世の役柄は、等身大の松坂桃李くんには合っているように思いました。あとは長台詞に酔わせられるようになって欲しいなあ。

鋼太郎さんはコーラス。言葉を操る台詞術の魔術、観客を中世のイギリスやフランスへ招き入れます。視線があったり(と思い込んでます)、唾液が浴びれそうな良いお席で、鋼太郎さんの色香と楽しい語りを存分に味わいました。私が鋼太郎さんのファンになったのは「ヘンリー四世」。松坂桃李くんのハル王子(後のヘンリー五世)と名コンビだったフォルスタッフがキュートで、惚れてしまいました。その後の物語を鋼太郎さん演出で見られたのも何だか嬉しかったです。

フランス王の横田栄司さんが、存在感があって素敵でした。溝端淳平さんのフランス皇太子、ひたすらスタイリッシュなのに脆さもあって、ヘンリー五世と良い対になっていました。中河内雅貴さんのピストルも、ふてぶてしさと庶民の哀しさを生き生き演じ目を引きました。

改めて見ると「ヘンリー五世」は、男くさい話ですね。最後、ヘンリーがキャサリン王女に仕掛ける可愛いプロポーズ作戦は癒し。ただ、“自分はハンサムじゃないけど味のある顔になるから一緒に年重ねるにはいいよ”と桃李くんが言うと、いやいやあなたはハンサムでしょと、突っ込みたくなります。実際のヘンリー五世は、キャサリン王女が生む我が子の誕生を待たずに急逝。それを思うと何だか切なくなります。
このプロポーズの言葉で思い出したのが、現代きってのシェイクスピア役者・演出家にして映画監督でもあるケネス・ブラナー。主演・監督をこなした「ヘンリー五世」で颯爽と映画界に現れたブラナーは、年を重ね、とても味のある顔立ちになったのよね。私がシェイクスピア劇にハマったきっかけが「ヘンリー五世」だったので、見返したくなりました。アジンコートの戦いを控えたヘンリー五世の演説、劣勢を跳ね返し兵士達の勇気を奮い立たせたあの場面が素晴らしかった。今回の「ヘンリー五世」がアジンコートの演説をかなり端折ったのは残念でした。