バーミンガム・ロイヤル・バレエ団のびわ湖ホール公演。あいにくの雨。


開幕時間が少し遅れている?と思ったら、監督デヴィッド・ビントレーが登場。
オーロラ姫のデリア・マシューズが怪我をし、キャストチェンジ。オーロラ姫は佐久間奈緒さん、王子は厚地康雄さんがデビューと伝えました(厚地さんはバーミンガムでは既に王子を踊っていて、日本デビューという意味らしい)。
周囲の反応が、「え、日本人?」という感じで、ちょっと悲しかった。
佐久間奈緒さんは、長年、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団に君臨したプリマバレリーナ。とても綺麗な人です。今シーズンで勇退。最後の来日公演だし、本来なら主演を見たい所ですが、今回は名古屋公演のみの予定でした。
ビントレー監督が「サクマナオ」と言った時、テンション無茶苦茶上がりました。
厚地康雄さんは、ビントレーが新国立劇場監督時代に、バーミンガムから連れて来た若手ダンサー。長身でノーブルな姿が人気でしたが、ビントレー退任と共にバーミンガムに戻りました。現在は、ファーストソリスト。佐久間奈緒さんと結婚し、お二人で育児真っ最中です。


さて、いよいよ舞台ですが、楽しみだったのが衣装。オーロラ姫誕生の時期は、ルイ13世から14世の初期頃。三銃士やダルタニヤンが走り回っていそう。目覚めた後の結婚式はロココ調。お祝いに列席するおとぎ話の登場人物達まで、ロココ調で統一し、お化粧もちょっと白塗りっぽい。徹底的に作り込んで、しかも刺繍やレースが繊細。とてもゴージャスなんです。日本舞台芸術振興会の公式サイトで少し、写真も見られます。
踊らないロングドレスのリラの精とカラボス、それぞれとても美しいドレスで、髪飾りも好き。
女性指揮者ニコレット・フレイヨンの指揮は早めにサクサク進行し、足技が細かいピーター・ライトの振付は大変そう。演奏はセントラル愛知交響楽団。たまに、ソロで音が飛びましたが、ダンサーに合わせ過ぎず、カラッと華やかでした。

プロローグ、オーロラ姫の誕生。
喜びの精を踊ったアリス・シーの伸びやかさが目を引きました。妖精達は、足をあまり開脚せずオールドファッションな踊り方。
プロローグで素晴らしいのは、リラの精とカラボスの対決。踊らないドレス姿の美女が、マイムのみで表現。リラの精のフェアリーゴッドマザーとしてのキャラ付けが分かりやすく、カラボスも悪女過ぎないのが、ライト版は良かったです。カラボスの手下達が、蜘蛛っぽい帽子をかぶっていて可愛かったのが、ワタクシ的にツボ。

1幕、オーロラ姫16歳の誕生日。
ワルツは、少人数ですが、けっこう踊りまくるので見応えあり。
いよいよ、佐久間奈緒さん登場。キラキラと輝く微笑、登場場面のジュテが高い! プレパラシオンやポーズの美しさが、プロローグの妖精達と別格。やはり長年君臨したプリマ。風格が違います。
ローズアダージョでは、かなり緊張されていました。急な代役だし、普通は佐久間さんの年代だと踊らなくなる体力の必要な役(統計は無いですが、だいたい30歳半ばを過ぎると踊らなくなる印象)。それでも、決める所はピッタリと音をはめ、難関をクリアするごとにニッコリ微笑。踊りきった後の、輝くばかりの笑顔。ちょっと泣きそうになりました。客席も一気にヒートアップ。
紡ぎ針に刺されたオーロラ姫が眠りに落ち、城を森で包むリラの精。舞台美術がやっぱり素敵。

休憩を挟まず、一気に100年後の2幕へ。
森に来た狩の一行。ドレスが一気に軽やかに、ウエストを強調した女性のドレスが、好き。
厚地康雄さんの王子、爽やかな風が薫るような登場。もともと長身細面で、思わず振り返るようなイケメンさんですが、佇まいが徹底的にプリンス。「眠れる森の美女」は、王子の見せ場が少ないだけに、かえって王子らしさが問われる印象。新国立劇場の退団が惜しまれたのも納得の王子様。
リラの精に誘われ森に分け入り、オーロラ姫の幻を見る王子。
佐久間奈緒さんの踊りは冴えわたり、ゆったりしたコントロールで幻のオーロラ姫が美しい。最高に美しい音楽だけど演出がつまらない事が多い“パノラマ”は、スモークの中で森の精が踊り、森の深みへ王子が入って行く雰囲気が強調され、今まで見た中で一番良い演出。
ピーター・ライト版の本当に良い所は、善悪の対決はリラの精とカラボスが象徴的に行ってくれるので、オーロラ姫と王子はひたすら美しく描かれる所。目覚めのキスまで、テンポよく不快さの無いストーリー展開。王子のキスで目覚めたオーロラ姫が、互いの気持ちを確かめるようにパ・ド・ドゥが差し込まれていますが、本編との繋がりがスムーズでクラシカルな空気も損なわず、とても美しかった。この場面の佐久間さんは、本当にうっとりでした。

3幕、オーロラ姫の結婚式。
パ・ド・カトル(いわゆる宝石の踊り)の水谷実喜さん、ベアトリス・パルマが、テンポが早く爽快。二人のチュチュの裏の層が黒、表が水色だったんですが、お洒落で可愛かった。
どのバレエ団でも変衣装になりやすい青い鳥が、まずまず綺麗な衣装でした。フロリナ王女のモレヤ・レボヴィッツが軽やか。
赤ずきんと狼の狼ティム・ダットサンが、柔軟性とバネのある踊りで、キャラクテールで無い役も見てみたい。
いよいよ、主役のグラン・パ・ド・ドゥ。
厚地王子のプリンスぶり、佐久間奈緒さんの輝くオーロラ姫。圧倒的な美の世界でした。オーロラ姫は、足の使い方がエレガントで、リフトも控え目。3度のフイッシュダイブも品よく、決まった形がとても綺麗。THE英国スタイルでした。
とにもかくにも、幸せいっぱいな舞台。
バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の長所は?と問われると、これ!といった特徴は無いのですが、バレエ作品の世界をきちんと観客に伝えるプロの表現集団だという所。純粋に踊りの質だけなら、日本のバレエ団でもっと優れたパフォーマンスを見せる所はあります。それでも、演技・演出・美術も含めたトータルパッケージで、とても楽しかったバーミンガムの舞台。
こちらの記事によると、佐久間奈緒さんだけでなく、中国人スターのツァオ・チー、ビントレー監督も今シーズンが最後。吉田都さんをはじめアジア系ダンサーを見出し、新国立劇場の監督としても日本バレエに貢献してくれたビントレー、振付作品も含め、とても素敵な監督だったと思います。


佐久間奈緒さん、厚地康雄さん、美男美女カップルだなぁ。
デリア・マシューズの怪我の詳細は分かりませんが、東京公演もキャスト変更があるかもしれませんね。

降板したペアは長身、しかも王子役のダンサーは190cm以上もあるアフリカ系ダンサーだったらしいです。いつか、見てみたいですね。