順序は逆になりましたが、納涼歌舞伎の二部も見ましたよ。

「修禅寺物語」

修禅寺の頼家の面から起草された岡本綺堂の戯曲。鎌倉時代を舞台背景にしていますが、主役の面作り師夜叉王は、近代的な芸術家の自我意識を象徴しているように思っています。気に入らない完成度のものを世に出したくない、残したくないと言う夜叉王の思いは、あらゆる芸術家の自負、理想の姿じゃないかしら? 役者自身にとっても、創造の担い手として自らへの宣言になるような台詞と思います。彌十郎さんは、大好きな役者さんなんだけど、舞台全てを自ら監修される経験値の少なさからか、主役を立てる役柄が多いからか、夜叉王の強烈な美意識とはちょっと遠く感じました。
夜叉王の長女桂が猿之助さん、次女の楓が新悟さん。猿之助さんの女形、やっぱり好き。高飛車に見えて実は一途な桂が、素敵でした。しっとり優しい楓も、新悟さんの雰囲気が活きていました。
勘九郎さんの頼家も、スッキリした貴公子ぶり。もっと強烈な孤独感を感じるかと思いましたが、品よく納めた印象でした。
付き従う萬太郎さんが、直垂が似合いすぎです。凜とした美声とプリンスな雰囲気。そのまま中世大河ドラマに出て欲しいくらい。附け打ちが入らない殺陣シーンが、歌舞伎ではちょっと珍しく感じました。
巳之助さんは、楓の夫春彦。二部・三部はフル出演で大活躍ですね。すっかり納涼歌舞伎の顔。
頼家の顔が爛れてしまう別の物語といつも混同していて、ラストまで見て、こういう話だったなあと思い出します(記憶力がてへぺろ)。
ラストを見ると「地獄変」を思い出します。夜叉王は、良秀ほど強烈なキャラクターではないけれど。





「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」

昨年のラスベガス編は見てませんが、十分、楽しかったです。
歌舞伎座で「義経千本桜 四の切」の開幕前日。リハーサル中に黒子が変死。忠信役をめぐるライバル役者の陰謀か?、犯人は誰だ?といったミステリー仕立て。
主役のはずの弥次さん喜多さんは、どちらかと言えば傍観者で巻き込まれて行く感じ。宙乗りや、四の切の裏側、小出しに見せる狐忠信は、猿之助さんの手中。さすがだなあと、断片的でも素晴らしかったです。染五郎さんも、やたらに笑顔で楽しそうでした。
金太郎君や團子ちゃんも、以前見た時より背が伸びていて、成長ぶりにビックリ。お蝶の風呂敷からは、金太郎君のヌイグルミが出て来ちゃって驚いていました! 役者さん達にとってもビックリ箱みたい。
隼人さんと巳之助さんの、ライバル関係の売れっ子役者が、楽しかったです。目まいで悩み深い隼人さんのナヨナヨした雰囲気、ビックリするほど美人さんな静御前の姿なのに大声で怒ってばかりな巳之助さんなど、ふだん見られない設定に、ファンとおぼしき人が悲鳴を上げてました。一部分ですが、四の切を演じる場面を見て、本役で見たいなあと思いました。
竹三郎さんの静御前も可愛かったわ。若い役者さんに混じって、どんな新作にも対応してしまう竹三郎さんの柔軟さが、大好きです。
なんちゃって古畑やコナン君が事件を引っ掻きまわす中、存在感抜群だったのが中車さん。ギラギラの緑のお着物に、熱い虫トーク(笑)。台詞じゃなくてフリーに虫を語っていたようで、ネタは日替わりだったみたいです。
目が釘付けだったのが児太郎さん。艶っぽい悪女役で、ますます綺麗になったような。犯人がお蝶のBパターンだったので、化け猫の姿も見られました。厳めしく、でも可愛かったな。
笑也さんの天照大神も、ゴージャスでした。

夏も何となく終わってしまったような気分。秋の気配に、少し寂しさを感じます。