ずいぶんと昔の思い出話を思い出した。
コロナなんて夢にも思わなかった夏休みの思い出。
両国国技館にプロレス観戦に行った。
「WWE」というおそらく世界一のアメリカの団体の日本公演である。
開場して早めに席について、入口でもらったチラシとかを読んだり、少しずつ熱気とともに人が増えていく会場の雰囲気を楽しんでいた。
ふと見ると、斜め前の席に一組の父子がやって来た。
お父さんと息子。
小学校中学年ぐらいの息子は、目をキラキラさせて今日の観戦が彼の今年の夏休みの一大イベントであることが容易に感じる事ができた。
席につくと何か言って父親は息子を残して一人で席を離れて行った。
おそらくトイレでも行ったのだろう。
息子は不安そうに父親を見送っていたが、父親が人混みに見えなくなると肩からかけていた水筒から飲み物を飲んだり、もらったチラシを見たりしていた。
そうしていると、一緒に行った友人が話しかけてきておしゃべりが始まって、私はは父子の事を一瞬忘れた。
話に花が咲いて2~30分もたった頃、会話が途切れた時に、ふと父子の事を思い出して視線を移して見ると、そこには息子が一人でポツンと座っていて父親はまだ戻っていなかった。
ずいぶん遅いな…トイレ混んでいるのかな?
さっき私がまだトイレに行った時はそんなに混んでいなかったのに。
なんて事を思っていたら、ふいに父親が帰って来た。
手には大きなポップコーンの袋と今日の公演のパンフレット、それとこの団体の人気レスラーのTシャツがあった。
それを見た息子の顔が見る見る赤くなって、目を大きく見開いて…
「お父さん!ありがとう!!!」
周りが思わず振り返ってしまうくらいの大きな声でお礼を父親に言って、満面の笑みでそれらのプレゼントを両手で抱きしめるように受け取った。
父親からのサプライズプレゼントだったようだ。
早速、Tシャツを着替えてパンフレットをめくり父親と一緒にポップコーンを頬張っていた。
なんて事を思っていたら、ふいに父親が帰って来た。
手には大きなポップコーンの袋と今日の公演のパンフレット、それとこの団体の人気レスラーのTシャツがあった。
それを見た息子の顔が見る見る赤くなって、目を大きく見開いて…
「お父さん!ありがとう!!!」
周りが思わず振り返ってしまうくらいの大きな声でお礼を父親に言って、満面の笑みでそれらのプレゼントを両手で抱きしめるように受け取った。
父親からのサプライズプレゼントだったようだ。
早速、Tシャツを着替えてパンフレットをめくり父親と一緒にポップコーンを頬張っていた。
嬉しそうな満面の笑みで…。
見ているこっちまで笑顔になってしまうような良い笑顔だった。
良かったな、坊主。
…と、ほっこりした気分なった。
きっと、その年の夏休みに父親と一緒にプロレス観戦したこの日は彼の忘れられない思い出になるだろうな…。
そう思うと、彼がうらやましくなった。
私には父親とのそんな記憶がない。
残念ながら、私の父親は良い父親ではなかった。
私はいつも父親の暴力に怯え、父親の顔色を伺っていた。
何処へ行きたいか、何が欲しいか…など、自分の主張よりも何と答えれば父親に気に入って貰えるか、怒られないかとばかり気にしていた…そんな子供時代に良い思い出なんか残る訳がなかった。
良いなぁ…君には良い父ちゃんがいて…
君みたいに喜んでくれるなら、
私もサプライズプレゼントしてあげれる息子が欲しいなぁ…
でも、君の父ちゃんみたいに私はうまく出来るかなぁ…。
たまらなく、父親として自分の息子に会ってみたくなったけど、性同一性障害として生まれてしまった以上、それはちょっとガマンしなければならない事だ。
「お父さん!ありがとう!!!」
……言われてみてぇなぁ…。
ほっこりした分、ちょっとだけ胸がチクンとせつなくなった夏の思い出。
たまらなく、父親として自分の息子に会ってみたくなったけど、性同一性障害として生まれてしまった以上、それはちょっとガマンしなければならない事だ。
「お父さん!ありがとう!!!」
……言われてみてぇなぁ…。
ほっこりした分、ちょっとだけ胸がチクンとせつなくなった夏の思い出。