あんたが石油ストーブの上で沸騰していたヤカンを掴み、

「二度と出歩けない顔にしてやる!!」

と、私に向かって怒鳴ってから30年程経ちましたね。



しかし、私には昨日の事の様に思えます。

あの日、あの瞬間に、私の中に僅かながらでも残っていた「父親」は死にました。


「私の父親」は完全にいなくなってしまったのです。



故に「あんた」は「あんた」になりました。
気に入らなければ「お前」でも構いませんが…。



こんな事をいうと、人目もはばからず



また怒鳴りつけますか?

また罵りますか?

また殴りつけますか?











話を戻します。



それまでは、大好きだったドラえもんやゴジラの映画に弟だけを連れて行き、私だけ置いて行かれても、幼かった私は

「自分が悪いから、お父さんを怒らせてばかりいるからいけないんだ」

と、思っていました。

でも、今考えても、半数以上は何故怒られなければならなかったのかわからない事ばかりです。



幼い頃、私が一番初めに好きになった事は「絵を描く事」でした。


「絵描き」という「絵を描く仕事」があると知り「絵描きになりたい!」と、その意味もわからない子供の私が言った時に「笑うセールスマン」が良くやるように私の顔の前を指差しした手を出して


「お前はこの手が描けるのか?」


と、小学校入学前の私に


「こんな指もかけない奴が生意気な事を言うな!!」

と、怒鳴り


「大体、こんな面白くも何ともない絵を描いているくせに何言ってやがる!」


私の描いていた絵を見て


「頭のおかしい奴が描く絵だ」


と言いましたね。


でも、絵だけではありませんでしたね。


漢字ドリルをやっていれば


「鉛筆の先が尖りすぎだ」

「なんでそんなに薄く書くんだ!」

「バランスが悪い」

とか、今思うと、よくもまぁネガティブな事をあんなに次から次へと見つけるもんだと感心してしまう程、私を片っ端から否定していましたね。


読んでいる本

やりたいクラブ活動

好きなテレビ番組

好きなマンガ

好きなタレント

好きな映画

好きなお菓子…


私のありとあらゆる物を否定して、自分が気に入ったものだけを肯定してました。

それは「私の選択」ではなく「あんたの思い通りの選択」でした。





それはあの頃の私には効果は抜群でしたよ。




私はすっかり自分の身の置き場がわからなくなっていましたから。




いつの間にか





「自分のやりたい事、好きな事」

 



ではなくて





「あんたが気にいる(怒らない、罵らない)事」





を選択するようになっていましたから。





当然、私は不安定な状態になっていきました


自傷行為なんてやっていた時期もありました

自傷行為をする事で、消えそうな自我を繋ぎ止めていたのかも知れません。


でも、あんたは典型的に「自分が絶対正しい」と信じて疑わない人間でしたから、私の自傷行為も



「頭のおかしい陰気な子だ」



と、私を殴り、罵り、更には「お前の育て方が悪い」と母と良くケンカをしていましたね


母に言ったって無駄でしたよ。

母は「人としてはとても良い人」でしたが、あの人もあんたと同じく「親になるべき人」ではなかったからです。


母自身が「永遠の子供」だったのですから。


そんな事は承知で夫婦になったのではないのですか?




まぁ、そんな事はどうでもいいです。




あんたが親としていかほどの覚悟があったかなど、母が卵巣ガンの末期と診断され、入院、手術と大変な時期に、10年以上別居状態のあんたが母のサインを偽造して、保証人にして借金を繰り返していた事を知れば薄々察する事も出来ます。




あの時も私は不眠症を患いました。






もう、諦めていたとはいえ、あんたはトコトン期待を裏切らない人でした。



あのヤカン騒動から10年以上別居状態で離婚に応じないでいたくせに



「離婚に応じないなら母の入院費を払え!」



と、言ったら判子を押しましたね。





本当に裏切らない人です。





あんたに「親の離婚届を出す情けなさ」など伝わらないのでしょう。





そう言えば、風の便りに大腸ガンを患い、入院退院を繰り返し、家賃滞納で住んでいた家を追い出されたと聞きました。


散々、市民税を滞納して住んでいた市に保護してもらったそうじゃないですか?








ガンになったんですか?







そうですか。









覚えていますか?






私が初めて高熱を出して小学校を休んだ日。


私は、おそらく熱のせいで、嘔吐してしまいました。

慌ててトイレまで行ったのですが、あと一歩のところで間に合わず、トイレの入り口の所で嘔吐してしまったのです。



「どうしよう」



パニックになっていた私をあんたは



「たるんでるからだ!!」


と、怒鳴りつけ、



「自分で掃除しろ!!」


と、殴りつけましたね。




熱と嘔吐と叱られたパニックで、私は泣きながら自分の吐瀉物にまみれた事、忘れられません。







ガンになったそうですね。






さらには認知症もすすんでいるらしいじゃないですか?










たるんでいるんじゃないですか?






たるんでるから病気になるんでしょう?




気合いを入れて下さい。









あんたを絶対に許す事はないでしょう。



この思いを抱えながら私は生きていかなければなりません。


満足ですか?




それとも、また私を否定しますか?



罵りますか?



怒鳴りつけますか?



殴りつけますか?





今更、何かににすがるような真似はせず、自分の事は自分で片付けて下さい。


もう一度言います。




あんたを一生許しません。





ーー今は、もういないあんたの「娘」より












 ※私の魂の話4・後編 〜Maria②〜へ続きます。