きっかけは軽い気持ちだった。


その頃の私は、性同一性障害の治療も軌道にのり、名前も男名に改名し、胸の手術も終えて、職場でも更衣室やトイレの問題も解決し、様々な人達の助けもあり、念願の「男としての生活」をおくっていた。

だけど、人というのは欲張りでわがままであるようで、現状に満足すると

「もっと!もっと!…もっと違う人生が自分にはあるはずだ!」

と、訳もなく焦燥感にかられ、現状を変えようともがき出す。

意味もなく転職を繰り返すタイプの人はこんな感情が強いのではないかと思う。

多分、私の場合は治療で男性化するに従って自分が解放されていった事も手伝っていたのだろう。


でも、私もそんなに馬鹿でもないし、若くもない。

闇雲に転職をしたからといって何かが変わる事なんてないこと位はわかっている。

今の「男としての生活、仕事」だって今の派遣会社の管理者達がいろいろ力になってくれたからだ。

宝くじが大当りでもしない限りは急に人生が思い通りに変わる事なんてありえない。



とは言え、このままくすぶって終わるのは嫌だ!



そんな事を悶々と考えている日々を送っていた。





そんな頃、弟夫婦が急にスピリチュアルな話をしてくるようになった。

やれ手相だ、数秘だ、アロマテラピーだ、オラクルカードだ…と。



オラクルカードってなんだ?



当時の私はそれ位の知識もなかった。



更には「癒しフェア」がどうだとか「天使」がどうだなんて言い出してくる。

弟は以前から「天使オタク」だったので、やけに生き生きとしていた。



そう!



二人ともやけに生き生きと楽しそうだったのだ。



そんな二人を少し羨ましく横目で見ていたある日、義妹・愛ちゃんからお誘いがあった。




「癒しのパステルアートをやってる自宅サロンがあるんだけれど一緒に行ってみない?」


パステルアート??

癒しの??

自宅サロン??


でも…


そう言えば……



小さい頃、絵を描くのが大好きだったなぁ…。



悶々とした日々の気分転換になればいいかな…と私は軽い気持ちで愛ちゃんのお誘いにOKした。



これが全ての始まりだった。



今の「私」になるきっかけ。




ちょっとした気分転換のつもりだった。





私は「癒し」という言葉をあなどっていた。