胸の切除手術を受けて抜糸も終わり、サポーターからも解放されて、順調に回復…とはいきませんでした。

キズ口もなんだかウェットのままで中々キレイにはならず、右胸はやっぱりリンパ液が溜まりやすく、切除したはずなのに右胸だけが乳房の様に膨らんでしまう事が多々ありました。

その度に自分で抜かなければなりません。

絞り出す訳ではなく、少しつついていると切開した所からリンパ液が流れ出してくるので痛みはありませんでした。

ただ以外に量が多かったので、自宅などで行う必要がありました。


ドクターは

「時間と共になくなっていくはずだから」

と言っていました。


私は元々キズ口が中々キレイにならない体質らしくて、虫に刺されてもすぐに破れて跡になります。

だから、時間がかかるのは仕方がないかも知れないなぁ…と思っていました。




それに、自分にやましい心当たりもあったからです。





この頃の私は喫煙者でした。



今でこそノンスモーカーですが、この頃の私はかなりのチェーンスモーカーでした。

1日に1~2箱は吸っていました。


手術前の説明には

「手術前最低でも1週間は禁煙してください。また、手術後は医師の承諾があるまで禁煙してください。」

とありました。

やはり、喫煙はキズの治りにも影響するから…という事からのようでした。


しかし、私はそれが守れませんでした。


喫煙の誘惑に負けて、本数は減らしたものの完全禁煙は手術日の前日から手術後の抜糸の日までの5日間位しか出来ませんでした。

もちろん病院には

「完全禁煙してます!」

と真っ赤なウソをついていました。


手術後も抜糸の時にドクターに

「1本でもダメですか?」

と半ば強引に承諾をもらった感じでした。


そんなだからキズの治りの遅さも予想出来る事でした。



どこか甘く考えていました。



しかし、そんな私の甘い考えは叩き壊される事になるのです!




その日、私はいつもの様に胸の処置をしていました。

リンパ液やキズ口の保護の為に、授乳期のお母さん達が使うおっぱいパットをあてていました。

そのパットを交換しようとあててあった左胸のパットを取ると見慣れない物が付いていました。

シワシワになったレーズンの様なものでした。


「?……なんだ、これ?カサブタ??」


そして、左胸を見て血の気が引きました。





それは乳首でした。





左胸の乳首が取れてしまったのです!






嘘だろ―――――ッッ!!!




私はちょっとしたパニックになり、急いで右胸も確認しました。


すると右胸も風前の灯火でした。

やはり、崩れたレーズンかウェットで取れかかっているカサブタの様になっていました。

医者でなくても、もう時間の問題であることはわかりました。


案の定、右胸もその日の入浴後には取れてしまいました。




私の両乳首はなくなってしまったのです。





喫煙はご法度であるという事はわかっていました。

術後不良だと乳首が取れる可能性も高い事もわかっていました。


喫煙をやめれなかった自分が悪いのもわかっています。



それでも私はショックでした。



「乳首再建手術しかないか…。処置の時の乳輪の事もあるしな。」



やはりまた手術か…お金もかかるなぁ…。


自業自得であるくせに私は落ち込んでいました。





するとそこへ残念な弟がやって来ました。


「どうした?暗いぞ?」

「…乳首が取れた。」

「えっ?!」

さすがに弟も驚いていました。

「両方?」

「両方。…また手術だ。お金どうしよう。」

自業自得とはいえ途方にくれて私は言いました。




弟は一瞬考えて驚くべき返答をしました。



「いらないんじゃない。」



は?



「いらないんじゃないの?男に乳首なんか。だってあれは元々、お母さんが赤ちゃんにおっぱいをあげる為のものでしょ?…赤ちゃんを生む事もないだろうし…。」


弟は続けます。


「それにあったとしても、たまにTシャツ1枚の時なんか目立ったりすると男でも恥ずかしい事もあるから無いなら無いでいいんじゃないかな。」





ウチの弟はいつもボーッとしていて気も効かないし、本当に残念な弟なのですが、極希にホームラン級の良いことを言う事があります。



まさにこの時がそうでした!!

まさにホームラン級の会心の一撃!!

目からウロコとはこの事!




弟よ!その通りだ!!


残念な弟が光り輝いて見えました!




私はあっさり立ち直りました。






それから10年経った今、私の両乳首は無いままです。

処置の為に3分の1程切除した乳輪もそのままです。

乳輪の所は少しひきつれた感じになりましたが、自分ではあまり気にならない程度です。

私自身、元々術後の傷跡についてはこだわりもなかったので時が過ぎてしまえば何も問題はありませんでした。







それどころか胸オペ後、身長が2センチ伸びました!

30歳を過ぎて信じられない事でしたが、事実です。

きっとそれまでは、自分の胸を隠したくて無意識に背中が丸まっていたのでしょう。


今、胸を張って生きています。


スポーツジムのプールも海パンで利用しています。

何も気にならなくて、自分らしく生活する事が出来ています。


周りの理解にも感謝しています。


タバコも止めました。
もうすぐ10年になります。


しかし、この胸オペ直後は完全に弟に救われました。




弟よ、本当にありがとう!

大丈夫だ!問題ない!