性同一性障害の治療を決心して、初めて信じた精神科医にこっぴどい裏切りをされた私はすっかり「精神科医不信」になっていました。

ネットカフェで調べた資料などから、幾つかピックアップした病院情報を眺めるばかりで、なかなか問い合わせが出来ずにいました。

また、同じ事の繰り返しだったらどうしょう…。

不安は消えず、時間だけが過ぎて行こうとしていました。


そんなある日、当時、一緒に住んでいた弟が部屋にやってきました。

そして不思議な事を話出しました。


「昨日さ、夢に関羽が出て来たんだよ。」


関羽…関帝です。

弟は、不器用で典型的なボ~っとしている残念な弟なのですが、特技というかなんというか不思議な力がありまして…。

俗にいう「見える、聞こえる、感じる人」なのです。

そして、何故か関帝の加護を受けていて、何かあると度々関帝からのメッセージを受けていました。

落ち込んだ時に夢で関帝に「顔を見せに来い!」と言われたから気分転換に関帝廟に行ってみたら、年に1度の関帝廟のお祭りで、とても良い気分転換になったり…そんなこんながあり、関帝廟は三国志好きの我々兄弟の「最強のパワースポット」になっていったのです。

そんな弟が関羽と再び夢で会ったと言うのです。

「なんだって?」

「なんか良くわからないんだけど、『3階にある病院に連れて行け!人生が変わるから』って言っていた…なんかあったの?」

この時、Mクリニックであった事の詳細は言っていませんでした。

ただ、カミングアウトした時に「治療を始める」と言った弟と母親には「先生と合わず、Mクリニックの治療はやめた」と言っただけでした。

「3階??ヒントそれだけ?」

「う~ん、…そう!3階。」

「どんな建物の3階だよ?ビル?」

「……あ、そう。ビル、小さい普通のビル。それで、近くに大きな橋があって川がある感じ。」

「………川??」

「川だと思う。とにかく橋があるから…。とにかく、そこで人生が変わるって言ってた」

それだけ言って弟は部屋を出て行きました。


ビル3階。

大きな橋。

川。


……………。
……………………。
…………………………。

どこ???

何、何、どういう事???


でも、笑われるかも知れませんが、私はこの残念な弟の不思議な力を認めているので、関帝からのメッセージが単なる夢ではないと思いました。


うーん…と頭を抱え、再び病院の資料に目をやると目に飛び込んできたのは「3F」の文字。


え?


改めて住所を確認しました。
自宅から電車で1時間程の所でした。

でも、そこは都心のど真ん中。

川や橋があるとは思えませんでしたが、「3F」が気になり、私はそのままの勢いでその病院に連絡をしました。

予約はあっさりとれました。


そして当日、私は都心の駅にいました。


そのクリニックは駅から徒歩5分程の所にありました。

駅前の道はにぎやかに車の往来も激しく、駅前は大きなバスロータリーになっており、信号の他に大きな歩道橋がかかっていました。

信号を待つのが嫌だった私は歩道橋を使う事にしました。

歩道橋を登って私はあっと気付きました!

歩道橋の上からみると、駅前の道を激しく行き交う車やひっきりなしに運行しているバスがまるで川の流れのように感じたのです!

そして、めざす病院は普通の雑居ビル3階にありました。


それが以来10年以上、今もお世話になっているNクリニックでした。


そして、初診から3ヶ月でNクリニックにてホルモン治療を開始。

半年で女名から男名に改名。

1年ちょっとで胸切除手術。

と、トントン拍子に進み、職場でもトイレや更衣室など男性として過ごせるように成りました。


ここまで来るにはたくさんの方々の助けがありました。

そのひとつひとつに感謝しています。


でも、このクリニックに出会う時は本当に「関帝の御加護」があったと思っています。

私が再び関帝廟にお礼に行った事は言うまでもありません。


さすが関羽雲長御推薦のドクターです。

私との相性も良いです。



そして最後に余談ではありますが、Nクリニックでも何度か先生が言っていました。

「Mクリニックに通院していたけれど合わなかったとまた転院してきた患者さんがいましたよ。」




Mクリニック…まだ、県内で開業していますが、いつの間にかホームページから「性同一性障害」という記述は消えていました。