「『あきらめる』って言葉、
 
 古語ではいい意味だったんですってね。
 
『明らかにする』が語源らしいんです」
 
 
 
「あきらめる」ことで自らを「あきらかにしていく」――

火星移住が身近になった、
 
今よりほんの少し先の未来が舞台の新感覚ゆるSF小説。
 
 

 
 
「自分の中が、一番遠い。
 
 親や国やえらい人に褒めてもらうことよりも、
 
 自分で自分を褒めることの方がずっと難しかった。
 
 死ぬ前に、自分を褒めてみたい。」
 
 
 
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実家の母がこの頃、急激に衰えている
 
と妹から連絡があった。
 
ペットボトルや瓶のふたが開けられない
 
食事も思うように手が動かない
 
着替えもひとりではできなくて介助がいる
 
包丁も使えず、料理もできない状態…
 
全体的に覇気がなく、とぼとぼとしか歩けなくなったのは
 
いつからだったか。
 
 
まだまだ若いと思っていたけれど
 
思っていたよりも早く、生活するのに手助けが
 
必要な段階に来ているという。
 
 
きっとまわりも歯がゆいけれど、
 
本人がいちばん受け入れがたいんだろうな。
 
できていたことがどんどん
 
できなくなっていく毎日は。
 
 
できる手助けはしてあげたい気持ちと
 
なんでもまわりがやってしまえば
 
ますます何もできなくなりそうで
 
こわくもある。
 
 
そのさじ加減が難しい。
 
きっとそばにいる父もそんな気持ちなんだろう
 
つい言葉がきつくなってしまうよう。
 
わたしがこどものころから喧嘩が絶えなかったふたりだから
 
晩年はしあわせに過ごしてもらいたいと願う。