タイトル 涙の箱

著者 ハン・ガン

訳者 きむ ふな

出版社 評論社

出版年 2025年8月

 

内容・所感

昔 それほどでもない昔にある村にひとりの子どもが住んでいた。名前はもちろんあったが皆は「涙のつぼ」と呼んでいた。生まれた時から おなかがすいた 痛い 寒い など子どもらしく泣いていた時期もすぎ 成長してからは 春先に芽吹いた薄緑色に輝く葉を見て泣き 犬が6匹の子犬を生んだら犬を見ただけで泣くという様子だった。そんな子どもを周囲は好ましく思っていなかった。

ある日の早春に 一人のおじさんが子どもを訪ねてきた。おじさんは涙を集めて 必要な人に売っている人だった。純粋な涙が手に入ると子供の評判を聞いたからだった。子どもはいざ涙を流そうとすると 純粋な涙は出てこなかった。おじさんは山の向こうに買いたい人が待っているのでと行こうとする。その時 連れていた 小さな桃色の尻尾と羽が神秘的な青色をしている鳥「青い明け方の鳥」が一緒にいこうよと誘う。二人は連れ立って 野宿をし 雨宿りをし進んでいく。やがて 買いたいというお爺さんの家に到着する。お爺さんはたくさんの涙を欲しがった。父親が死んだとき 泣かなかった。それを見た妻も出ていったがその時も泣かなかった。お爺さんは 涙を購入すると すべて飲み込む。そしてしばらくするととめどない涙が。ひとしきり流すと 涙はうれしい時の涙にも。

買う涙がなくなったお爺さんに おじさんは「影の涙」を見せる。それは日に当てると消えてしまうもの。懐中電灯で照らし映し出されたのはお爺さんが2歳の時に亡くなった母親だった。それがお爺さんを蓋していたものだった。明け方 旅だつお爺さんが最後に笛を吹くと 「青い明け方の鳥」も鳴く。そのそばで子どもも泣き おじさんは瓶に集めるのだった。

それぞれに旅立ち 子どもも家路についた。

 

大人のための絵本 というコンセプトの本。表紙の青い地に子供の横顔にいろいろな思いが取り巻く様子がと綺麗である。中の挿絵もしかり。

「泣く」という行為が必ずしも 感情を表しているとは限らない。しかし 人から見ると それはわかりやすい表現でもある。悲しい時 うれしい時 泣くという行為を人はするが 本当に悲しい人は泣けないのだと思うとうっすらわかったように言うが このお爺さんのように意識の底奥深くで閉じ込めてしまった悲しみも存在するのだろう。

子どもが女の子 という認識で読み終えたが、いざ ここに記そうと思って読み返したら 断定した言葉はなかった。挿絵がしいて言えば女の子っぽいからかも。