今でいうFIRE(Financial Independence, Retire Early)を目指したんでしょうね。
バリバリの商社マンだった父が早期退職をして大金を手に入れたけれども、一攫千金狙って株でしくじり、無一文になってから、そこそこの年金暮らしに復活するまでの話、いや、今もあがき続けている話を、3回に分けてしたいと思います。
父はいわゆる「ギャンブラー気質」で、株、競馬、麻雀が大好き。私の知る限り、3度、お金で失敗しています。
1度目は15年前。
少し前に早期退職をした父は、上乗せされた退職金を手に入れてウハウハになり、株に全額投資しました。父は決して投資は上手ではなく、そんなに儲かってなかったし、ギャンブル的短期売買をしていました。家族の誰も、まさか6千万の退職金を全額投資したとは知りませんでした。
ある日、父から私にこんな話がありました。
「お前、貯金あるだろう。俺に預けないか?銀行より良い利子を付けてやるぞ」
不審に思った私が母に打ち明けると、「最近のお父さん、目の色変わっちゃって変なのよ」と母が言い、父に追及したようです。渋っていた父の口からようやく語られたのは、こんな話でした。
「株に退職金を全額つぎ込んで損をした。信用取引をしたから退職金以上の大損をした。生命保険は上限まで借り入れたし、自宅を抵当に銀行からも借り入れた。もうサラ金に手を出すか家を売るしかない。利子の支払いで死にそうだ」
父は早期退職後、「俺は今まで十分働いたんだから、もう働かなくていいだろ?」と言って働きませんでした。年金も繰り上げ受給していました。父は私の前ではカッコつけて、のらりくらりと言います。
「リバースモーゲージって知ってるか?家を抵当に入れて銀行から借りれば、利子を払うだけで、自宅に住み続けられるんだ。借金自体は、俺が死ぬときに家を銀行に渡してチャラになるんだ」
「じゃあ、お父さんが死んだ後、お母さんはどうなるの?」
「それは・・・」
「自宅は無くなっちゃうんだよね?」
「そうだな」
「生命保険金は契約者借入してるんだから、出ないんだよね?お母さんは年金だけで路頭に迷うわけ?」
「・・・」
「保険も家も無くなって、それで借金はゼロになるの?」
「・・・」
「お父さん、自分のことしか考えてないよね?そもそも退職金は、お母さんと使うものだったんじゃないの?」
「退職金は俺の金だ。俺が働いて貯めた金だ」
「お母さんの協力があったこそ貯められたお金でしょ?老後は退職金で暮らすんじゃなかったの?」
「だから株で増やそうとしたんじゃないか!」
「無理でしょ、お父さん、株下手なんだから」
それから、逃げようとする父をなだめすかしながら、いろいろ話して、自宅を売却することに決めました。
借金生活を続けても「利子がある生活」では精神的に追い詰められていましたし、父の「金は借りればいい」という考えでは、借金が膨らむばかりだったからです。
父は動かないので、私が不動産屋を探しました。ちょうど、大型新興住宅地にあった自宅の開発業者が売却も手掛けており、当時流行っていた「リフォーム(今で言うイノベーション)してから売却する方法」で、想像より高値で売ることができました。これは本当に助かりました。借金を返済した上に、引っ越し費用が出来たのです。
この頃、気が晴れていく父と裏腹に、母が精神的に病んでいきました。
「長年住んできた家だったのに・・・。近所の人たちに何て言ったらいいの?借金で首が回らなくなって家を売りましたって言うの?」
「お父さんが退職したら一緒に海外旅行しようって思ってたのに。お父さんが家にいなくても、そうやって頑張ってきたのに・・・」
(父は長年単身赴任でほとんど家にいませんでした)
私は、父が「自分の金だ」と言い張って、本来夫婦の共有財産である退職金と家を失ってしまったことに腹を立てていましたし、その犠牲になった母に同情していました。
「お母さん、私と一緒に住もう。夫も賛成してくれてる。近所の人たちには『娘が障害児を育てるのは大変だから、お母さん助けてと言われた』と言えばいいじゃない?」
この助け舟は随分母を励ましたようです。
「娘に頼られちゃって。おほほほ・・・」
「娘さん家族と一緒に住めるなんて幸せね」
みたいな感じです。
でもまあ形はそうなんですが、「いつまでも同居する気はないから、一旦うちの部屋は貸すけれども、アパートを探してね」と言ってありました。
この後のすったもんだも書きたいのですが、長くなるのでやめます(笑)。
これが1度目の父の破綻でした。
2度目の破綻は、それから3年後のことです。
同居は解消し、両親はスープの冷めない距離の小さなアパートに住んでいました。
母は強い人でした。「ゼロから再出発するわ!」と、アルバイトを掛け持ちして、少しずつ貯金していました。「もうお父さんを頼らない。自分の老後資金は自分で確保するわ」と。
ところが突然、「Sakuraちゃん、お母さんの貯金が無くなってるの!」と電話がありました。見ると貯金残高が0になっています。なけなしの40万円が、0です。この40万円は、たったの40万円かもしれないけど、母が60代から必死に貯めたお金です。
犯人はすぐに判明しました。父です。
「また株で損をしたんだよ。俺には金がなかったんだよ!」
呆れてものが言えません。悔しくて涙が出ます。
貯金0になっても、まだ株をやめられないんです。それどころか妻の金を盗むんです。通帳を見つけて、推測できる暗証番号を入れて、出金したそうです。
「お母さん、夫婦間でも泥棒ってあるんだね。暗証番号は見破られないものにして、通帳は隠さなきゃだめだよ・・・」
3度目は、つい最近のことです。
母が2年前、嬉しそうにやって来ました。
「Sakuraちゃん、今まで苦労かけてごめんね。もう大丈夫。お金の心配しなくていいわ。お父さんね、昔お世話になってた親戚から、400万円の遺産が入ったの。これで老後の医療費とか、お墓とかお葬式とか出せるから、安心したわ」
「そう。それは良かったね。お父さんは働く気がないから貯まらないと思ってたけど、安心した。お母さんもホッとしたね」
「うん。ありがとう。これでアルバイトを減らせるわ。掛け持ちやめるわね」
それから2年経った今、過去ログに書きましたが、父が「心臓の手術をするかもしれない」と言いました。これを機に「お父さんもお母さんも年だから、亡くなったときのことを一応考えておかないとね。お墓はどこに建てようか?お葬式はどこでやろうか?」という話をしたんです。
「お父さんはこの前の遺産があるから、お墓も建てられるし、いざ手術になったり介護が必要になったとしても大丈夫だね」
と私が言うと、父はサラッと言いました。
「年金暮らしは苦しくて、毎月貯金を取り崩していたら、その遺産は100万円ちょっとになっちゃったんだよ」
「え?そんなに苦しかった?割と年金貰ってると思ってたけど・・・。100万でお墓とお葬式と介護費用、足りるのかな?」
その場は追及しないで別れました。
父がいなくなると、母が苦しそうに言いました。
「お父さんね、また株で失敗したのよ」
「また?まだやってたの?!」
「もう病気ね・・・」
「遺産は・・・」
「この前言われたの。株で損したから、遺産で全額返済したって」
「100万残ってるって・・・」
「あれは!あの100万は共有口座の家計費なのよ!お香典とか、年払いの自動車税とか払ってる口座。2人の年金と私のアルバイトから毎月の家計費を引いて、余ったお金を共有口座に貯めてるの。いわば2人の貯金。お父さんのお金じゃないわ。それをSakuraちゃんには、遺産の残りだなんて嘘ついて・・・。もう嫌だわ!」
開いた口が塞がりません。
サラッと嘘をついた父。嘘が上手くなりました。
1回目の破綻のときも「俺に金を貸したら市場より良い利子つけてやる」と言って、私の前ではカッコつけてました。今回も言いくるめようとしています。本当はばれているのに、気づいていないのです。鼻をへし折ってやりたいけど、それをすると父の怒りの矛先が母に向くので、やめています。
それにしても悔しすぎます。父はアルバイトを始めていましたが、自分のアルバイト料は自分のお小遣いとして使っていました。おいしい物を食べる楽しみのためです。でも母には「お前の方が年金が少ないんだからアルバイト料を出せ」と言って家計に入れさせていました。母はうまく言い返せないので(父がずる賢いので)、言いくるめられてしまうのです。モラハラかなと思うこともあります。
さて、私は冷静にならなければ。共有財産100万円を父に無駄遣いさせず、老後資金として(すでに老後なんですけど!)残しておかなければなりません。その対策を考えます。
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