白石→武蔵SS:『恋する瞳は美しい』(前編) | 櫻田日記帳

白石→武蔵SS:『恋する瞳は美しい』(前編)




人は恋をすると変わる。




格好良くなったり、キレイになったり、可愛くなったり。
気前が良くなったり優しくなったり真面目になったり。瞳がキラキラ輝くなんてのもあるらしい。
とにかく人間的にワンランクもツーランクもアップする。
それというのも全ては恋をした相手に良く思われたいからだ。気を引いてあわよくば自分を好きになって貰う為の。
それはもはや人に備わる、動物的本能と言っていい。



ただ、目の前にいるこの男の場合はどういう訳か、その例から大きく逸脱してしまった。

恋をしたせいでおかしくなった人間がここいる。

四天宝寺男子テニス部部長・白石蔵ノ介を眺めながら、忍足謙也はこめかみを押さえた。






「…武蔵…」



頬杖をつき、頬を赤らめ、溜息をつく、無駄に顔の良い男。その瞳は僅かに潤んでるようにも見える。
絵になりすぎて恐い。女子が見たらよろめいてしまいそうな光景だろう。もしくは嫉妬で身を焦がすか。
呟いているのがやたら勇ましい男の名前でなければ。



「はぁ…今何してんのやろ、武蔵…」


「…練習しとるんちゃうかな、テニスの」


「テニスか…また手合わせ願いたいもんや。できればペア組んで欲しいけど、…なんやろなぁ。アイツの全てが俺を高めてくれるっちゅうか、昂ぶらせるっちゅうか、むしろ荒ぶらせる…」


「わかったわかったそれ以上言わんでええ」


「皆まで言わんと分かってくれるんか。さすが持つべきモンはダチやな」




満足そうに笑って、そして再び溜息と独り言の世界に突入していった。
別に分かりたくもないが、分かっていると言うしかないだろう。でないとあの先何言い出すか分からん。
ここに後輩・財前光がいれば、部長めっちゃキモイっすわと冷徹なまでに突っ込んでくれるのだろうが、残念ながらいない。
いたところでどうにかなる問題でもないが。




「知っとるか?武蔵と蔵ノ介で、二人の名前に同じ”蔵”の字が入っとるんや。これって完璧な運命やと思わへん?」


「……」



知るかボケと頭の一つでも叩いてやりたかったが、できなかった。
なぜなら今のは冗談でもギャクでもなく、本気のホンモノだからだ。


自分の知る白石蔵ノ介という人物は、(多少妙な言動があれど)テニスは全国区・勉強も学年上位・性格も穏やかで冷静だが面白みもある。そしてそれ故女にも大層モテる。
そのプレイスタイル同様・パーフェクトな男だった筈だ。


それが今やどうだろう。一人の出逢って間もない同学年の男に骨抜きにされ、妄言をまき散らす様は。


女子が見たら間違いなく別の意味でよろめいてしまうであろう光景だ。
そう、一言で表すなら今のコイツは変態そのものだった。




今のお前を鏡見が見たら惹かれるどころかドン引かれんで、と伝えてやろうかどうか悩んでいると、元祖変態・金色小春が寄って来た。今日ばかりは白石があまりにもアレすぎてまともに見える。



「うふふ~いいわねぇ。恋に恋する蔵リンもス・テ・キ」


「…なんや小春かいな。悪いが今は構ってやる気にならへんねん」


「まぁそうつれない事言わんと。実はアタシ、武蔵くんの声マネできんのよん。ちょっとやったげましょか?」


「ああ?今の俺に冗談は通じへんねん。しかも武蔵絡みのことは。しばかれたくなかったらどっか行きや」


「いやーねぇ、カレのことになると殺気立っちゃって。ええからええから、ちょっと目ェ閉じてごらんなさいよ」




強引に促され、渋々と目を閉じる白石。
これで似てへんかったら蟹道楽に吊るし上げんでと、本当に実行しそうな事を呟きながら。
二・三度咳払いをし、発声練習らしきものをした後小春がしゃべりだした。



「『ごめん白石、待ったか?…今日はどうしてもお前に言いたいことがあってさ…』」



待ち合わせ的シチュエーションらしい。そこまで凝らんでもと思ったが敢えてツッコまなかった。
セリフの中盤からぴくりと白石の肩が動く。俺はよく知らんが、どうやら本格的に似ているようだ。
確かに普段の小春の声とは大違いやけども…



「『今度の大会、本当はお前と組みたいと思ってたんだ。…お前のこと、好きだから……。白石のこと、初めて見た時から気になってた。一目惚れってヤツ?』



展開が唐突すぎると思ったが、武蔵風(?)照れた素振りやらの演技に普通に感心したのでここでもツッコミをやめた。
まぁ確かに普通に巧いし、可愛いと言えなくもない…かもしれない。目を頑なに閉じていればの話だが。
ふと横を見ると、小春のセリフに合わせいちいち細かく頷いている。大丈夫かこの男。





「『だから…その…いきなりこんなこと言って絶対ヒくと思うけど、俺今白石と…したい。……抱いて欲しい…』」





なんでやねん!と言う俺のツッコミより早く、おそらくエクスタシーの頂点に達したのだろう。
目をカッと見開き勢いよく立ち上がった。



「武蔵…!俺も、お前がむっちゃ好きや!今夜は帰さへん…!!」



猛然と小春に挑みかかる白石に、俺は持前のスピードを生かしすんでのところで食い止めた。
薄々やりそうな気配はしてたがまさか本当にやるとは!




「お、落ちつけ白石!こりゃ鏡見やのうて小春や!さんざ見慣れてるあの小春やで!!?」


「…俺も…お前を愛しとるん…マジ惚れなんや!」


「おおっ!なんや白石は小春に惚れとったんかいな。ええぞユウジから奪ったれや~!」


「きゃっ☆蔵リンたらみんなの前でなんてっ、んもォ大胆~!」


「白石ィ!きさん俺の小春になにさらしとんねんゴルァ!!!」






本気のスリーパーホールドをかけているにも関わらず、それを上回るパワーで小春に突進しようとする白石。
頬を赤らめる小春。
面白がってアオる金太郎。
マジ切れのユウジ。



正直早くこの空間から出たかったが、今手を放してしまえば一生後悔することになる。
それが友情っちゅうもんやろと己に言い聞かせ、耐えた。ひたすら耐えた。この嵐が過ぎ去るのを。





その後も金太郎が「ワイは武蔵とよく一緒に練習するし試合もするし、ファミレスとかで一緒に食ったりする」。
というセリフに白石が過剰反応し、事態は悪化の一途を辿った。


何も知らない千歳と銀が入ってくるまで、ホテルの一室はしばし阿鼻叫喚の地獄と化した。














下で散々跡部武蔵の萌え度は異常、と呟きながら初SSは白石→武蔵です。ボーイズ編の攻略対象ですら…ない!
白石がボーイズ編でないのはガチすぎるからだろうと思っています。
主人公はイケメンだし、白石は正統派美形だし…

その二人で「遠距離言うんがめっちゃ歯がゆいわ…!」とかやられたらフォローのしようがない。無理。


声マネと言ったらユウジのお家芸ですが、でも武蔵と小春の中の人が一緒ということで記念! どうしても、やりたかった…!



こんな内容になってしまいましたが私は白石×武蔵が普通に気になってます。白石は心底カッコ良すぎる。
無駄に後編へ続きます。 後編は唐突にメインキャラが変わります…(ええ…)