「あんのこと」上映とその後入江監督の舞台挨拶があるというので、川越スカラ座に行ってきました。

 

予約席は満員で、当日券が20数枚発売されたようです。15時の会場前に整理番号順に並んで入場、昔懐かしい自由席です。開演まで予告編が流れる中、映画館の方から上映後の舞台挨拶についての説明が簡単にありました。

 

 

本編上映後拍手が起こる中、入江悠監督が入ってこられました。映画館の方と対談するような形で始まったのは舞台挨拶というよりトークショー。質問をたくさん受け付けたいということで、質疑応答をメインにお話が繰り広げられました。

以下記憶に残っているお話をいくつか書き留めておきたいと思います。例によって作品のネタバレをしていますし、記憶違いや誤っているところがありましたら、ご容赦ください。

 

 

★監督の今までの作品とテイストが違うことについて

自分ではあまり自覚がなかったが、抑えた演出だったと思う。モデルがいたので、キャラクター付けはせず、杏を演じる河合優実さんに任せ、彼女が役に寄り添ってくれた。

 

★物語の作り方について

杏のモデルの方は亡くなっているし、母親は行方不明、元刑事の方は実刑判決を受け服役中ということで、手掛かりはきっかけとなった記事を書いた記者の方しかいなかった。その方に何度もお話を伺って形にしていった。

コロナ禍の最中感じていたことを忘れないたくないと、当時の状況を取り入れた。

 

★赤ちゃん隼人と杏のシーンについて

ここだけはオリジナルのエピソード。杏と隼人以外はカメラマンだけを残し、他のスタッフは子供の目に入らないスペースにいて見守った。お昼寝やおやつの時間など、本来の生活ペースに合わせ、順撮りしたので、ほとんどドキュメンタリーだった。隼人役の子は、だんだんなじんできて、最後の方はスタッフとも遊ぶようになり、クリスマスプレゼントを上げたりした。

 

★実話ベースの作品ということ

日本では少ない。アメリカは多い、訴訟大国なので裁判費用を制作予算に盛り込んでいるそう。実話をもとにすれば、誰かを傷つける危険は付きまとう。それでも後から振り返ってその時代を象徴するような作品を作りたい。昭和なら例えば「仁義なき戦い」シリーズで、当時の暴力団闘争がわかるとか。「あんのこと」でコロナ禍当時の状況を残しておきたかった。また2020年頃から取りざたされている性加害の問題にも焦点をあてたかった。

 

★撮影について

俳優さんの演技についてNGはほぼなかった。カメラアングルを変えて同じシーンを演じてもらうことはあり、例えば杏の最後のシーンは4回同じことをやってもらっている。本番を終えてもう1回と言ったのは、桐生が多々羅に面会するシーン。OKしてこのまま帰るのが惜しい、稲垣さんの演技をまだ見たいと思ってしまったから。終わってから1回目の方が良かったと思うと稲垣さんがおっしゃって、自分もその通りだと思った。2回も泣かせてしまって稲垣さんには申し訳ないことをした。

 

★配役について

最初に決まったのは杏役の河合優実さん。デビュー前から知っていて、ご自身でイメージしながら役を作り上げていける方だと思った。

次は多々羅役の佐藤二朗さん。二面性のある役だが、明るくて型破りな感じがあっていると思った。

桐生役はモデルとした記者さんが上品で物静かな方で、稲垣さんと雰囲気が似ていた、一番実像に近い配役だった。

 

 その他

・多々羅が最初に杏を取り調べるシーンでは落語をやる予定だったが、長くなるのでヨガに変えた。

・季節がすべて冬なのは?という質問には、単純に撮影が冬だったから。ただカラオケのシーンは夏の設定で、服装もそれらしくしたつもりだが、あまり分からなかったかもしれない。

・12月30日週刊誌の編集室のシーンが撮了だった。

 

★海外事情について

・海外ではエンドロールが始まると部屋が明るくなってしまうので、余韻を味わえない違和感がある。

・ベトナム映画祭での上映では20代の女性観客が多かった。

・コロナ禍が先に収束した海外では、実感が薄れていて「あんのこと」も公開がもっと早ければ良かったと言われた。

 

 

開始早々に映画館の方から、この間是枝監督が見えて2時間以上話したと聞いた入江監督、その記録を更新しましょうと張り切って、本当に色々な質問に真摯に、楽しそうに答えてくださいました。開始から1時間半を超えさすがにストップが入り、7時10分ぐらいに終了。監督は記録更新したかったようですが、それは次の機会にということになりました。

 

その後サイン会もしてくださり、一人一人丁寧に対応してくださいました。監督に伝えたいこと、たくさんあるはずなのにいざとなると何も思い浮かばず、ベトナム映画祭の受賞お祝いを言うのが精いっぱい。後は、ブルーレイにする際は未公開シーン入れてくださいとお願いしたら、もう少し詳しくといったそぶり、でも行列が気になってそれ以上お話できずに、去ってしまいました💦

 

「あんのこと」辛いけど何度見ても見入ってしまいます。監督のお話や書かれたことから、撮影したシーンをかなり落として、削ぎ落とされた作品になっているのが推測できます。だからこそストレートに心に突き刺さる。杏のこと、彼女を助けられなかったなこと、コロナ禍で辛かったこと…受け取った様々な想いを胸に、自分にできる事を考え続けていきたいと思います。