紀伊国屋書店で開催された、ドラマ「燕は戻ってこない」のプロデューサー板垣麻衣子さんと脚本を担当された長田育恵さんのトークイベントに行ってきました。

 

 

朝ドラ「らんまん」でタッグを組まれたお二人。まずは「らんまん」について印象に残っているシーンや台詞など、思い出話を色々聞かせていただきました。

 

「燕は戻ってこない」のドラマ化は板垣さんが原作を読んでぜひドラマ化したいと企画を通し、「らんまん」が終わる前に長田さんに脚本を依頼されたそうです。おかげで3年連続年末年始のお休みが亡くなったと長田さんが笑っておられました。

 

物語を書くことを目指していた長田さんは、大学で演劇に出会い劇作家の道へ。コロナ禍で演劇の活動ができなくなった時期に声をかけられ、ドラマの脚本を書くことになったそうです。ドラマと演劇の脚本作りは基本的には変わらないそうで、人物の関係性を描くことを大切にしているとのこと。師と仰ぐ井上ひさしさんの言葉「その人物が人生で一度しか言わない台詞を入れる」を大切にしているそうです。

 

「燕は戻ってこない」ドラマ化にあたって

白黒つけられないものに直面した時、人はどう行動するのかというのを描きたかったという板垣さんの言葉を受けて、長田さんは答えが出ないからこそ書いていて楽しかったとおっしゃっていました。小説では言葉で表現されていることを、映像化してどうみせるかということを考えて、原作にはないシーンを織り込まれたそうです。例えば第1話の基と悠子がペットショップに犬を探しに行くシーン。悠子は不妊治療をやめて代わりに犬を育てようと思っているが、基は子供を持つことをあきらめていない。二人の気持ちがこのシーンに込められているといったことなどをお話してくださいました。

 

生殖医療エージェント「プランテ」について、板垣さんはデフォルメされた非現実感を出したかったそうで、エージェント青沼役の配役について寝ている時に「降りてきて」朴さんしかいないと思われたそうです。

基役の稲垣吾郎さんも「降りてきた」そうで、嫌われる役どころだけれど、それだけではない複雑さを表現できる方、上品な美しさがあって、トップに上りつめたアーティストという役どころにぴったりだと思われたとのことでした。長田さんも、稲垣さんは舞台経験も豊富で長台詞を厭わない方、台本で10ページ以上あるという第9話の基と理紀の会話のシーンを楽しんでやってくださったとおっしゃってくださいました。理紀役の石橋さんは最初に決定していたそうです。それぞれの役柄にぴったりの方々が集まったとのことでした。

 

この作品は、単純な弱者と強者の対決ではない。最初は貧困にあえぐ理紀に共感し、基を嫌う人が多いと思うけれど、中盤の彼女の行動や、代理出産の招いた事実に直面し、登場人物たちが変わり始める、自分ではない自分が出てくるのが魅力とのことです。長田さんたちはスタッフと、例えば「基の感情」というテーマについてたくさんディスカッションをされたそうで、夜中まで話すことも度々だったとのことでした。子供に関してドライになってしまった悠子、宿った命の重さを感じて自分の信念が揺らぐ基。それぞれが最後にどんな道を選ぶのか、結末に期待が膨らみます。

 

5月半ばには撮影終了、2024年5月がこの作品に込められているそうです。最終回は理紀の決断が見どころになっているそうで、感動的なラストシーンなので、ぜひご覧いただきたいとのことでした。

 

板垣さんも長田さんもお話がとても上手で、QAも入れて1時間半のトークセッションがあっという間に感じられました。作品作りに対するお二人の真摯な思いがたっぷり聞けて密度の濃いひと時でした。また吾郎さんともぜひお仕事ご一緒していただきたいと切に願います。