懐かしさと少しのほろ苦さ、切なさを感じる作品でした。

 

11才のリャオジェは、レストランの給仕長をしている父リャオタイライと二人暮らし。理髪店を始めるのを夢見てつましい生活を送っています。ある日、辺り一帯の地主でもある実力者シャ社長と知り合ったリャオジェは、成功したいのなら他人の事など思いやるなと言われます。おりしもバブルで資産を増やす近所の人を見て、リャオジェは自分たちも夢のために投資で資産を増やそうと父に言うのですが、取り合ってもらえません。

 

冒頭、美しい女性リンが狭い商店街の通りを歩きながら、家賃の収集にやってくる姿が描かれます。時代は1989年、台湾郊外が舞台ですが、日本の昭和30年代を思わせるような懐かしさがありました。家賃は現金払い、家でサックスを吹くリャオタライはレコードをかけ、息子の晴れ着を足こぎミシンで手作りしている。節約のためにお湯を使い終わったらすぐ消しに走るガス給湯器の「ボッ」と火がともる音も懐かしい。バブルの雰囲気に流されず、あくまでも誠実に生きようとするリャオタライ。そんなのどかな家庭の情景と対極にあるシャ社長は「オールド・フォックス(腹黒キツネ)」とよばれる曲者で、確かに冷血な面も見せますが、絶対悪者には見えない。リャオジェを見る目には慈しみも感じられるのです。

 

リャオタライを演じたリウ・グァンティンが、優しくて誠実な父親そのもので素敵でした。彼が勤める中華レストランに現れたお金持ちの妻ヤン役の門脇麦さんも素晴らしかった。中国語を自然に操り、金銭的に何不自由がなくても心は満たされていない、若き日の知り合いリャオタライと再会して一層愁いを帯びた様子を見事に表現していました。門脇さんは舞台「未来少年コナン」でも拝見しましたが、素敵な俳優さんですよね。また吾郎さんと共演していただきたいです。

 

自分の真面目な生き方を崩さない父と、夢を叶えるためには手段を厭うなと言うシャの間で揺れるリャオジェは、果たしてどんな道を歩むのか。ラストも良かった。エンドロールで流れるWhen I Fall in Loveを聞きながら、しみじみと余韻に浸りました。

 

 

シネマナビ!で印象に残った一言:

「…この映画全体が、押しつけがましくないんです。こういう話って『お金よりも大切なものってありますよね』みたいに説教くさくなりがちな気がするんですが、それがまったくないんです。」

 

 

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