絶縁状態だった父親が認知症になったとの連絡を受けて帰郷した千紗子。親友と飲んだ帰り道に彼女の車にぶつかった少年を、とりあえず家に連れ帰ります。虐待の跡があり記憶を失っている少年を千紗子は、自分が母親だと言い、3人で一緒に暮らし始めるのですが…

 

冒頭に映し出される日本の原風景のような山間の景色は、美しいけれど閉塞感も感じさせて、作品全体を象徴しているようにも見えました。少年に自作の童話の主人公の名前と同じ拓未という名を付けた千紗子には、悲しい経験があります。父親の孝蔵は、仕事一筋で妻を早く亡くした後悔からか、木彫りや粘土細工で観音像を作り続けています。3人での暮らしでそれぞれが穏やかさを取り戻していく生活は、しかしいずれ終演を迎えるだろうという悲しい予感を漂わせています。だからラストの展開も何となく予想がついてしまいました。

 

シネマナビ!で吾郎さんもおっしゃっているように、主演の杏さんはじめ俳優さんたちの演技が良かった。特に父親を演じた奥田瑛二さんには圧倒されました。最初はどなたかわからなかったぐらい認知症の老人になりきっていて、両親が認知症になった経験のある身としては、見ていて心が痛みました。町の医師役の酒向芳さんも飄々とした雰囲気で、作品に温かみを与えていました。

 

老人介護、児童虐待等々、様々な問題が描かれていて考えさせられる作品ではありますが、もう少し焦点を絞っても良いのかなとも思いました。

 

 

シネマナビ!で印象に残った一言:

「最後の畳みかけるような展開の中、いくらでも重くなる作品なのかもしれないけれど、杏さんって悲しみや暗さを背負った役柄でも、どこか彼女の本来の明るさと上品さが漂っていて、それが凄く救いになる。」

 

 

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