美しい映像に魅せられつつ、そこからじわじわと恐ろしさが広がってくるような作品でした。

 

 

冒頭、真っ暗なスクリーンから一転、緑豊かな湖で水浴を楽しむ家族の様子が映し出されます。田舎の瀟洒な邸宅に暮らすヘス一家、夫のルドルフはナチスの将校で、家庭を切り盛りする妻ヘードヴィヒは豊かな暮らしに満ち足りた様子。でも隣の壁を挟んだレンガの建物からは煙が立ち上がっているのです。

 

プールのある庭、可愛い子供たち、お手伝いに囲まれて、幸せそのものの生活。でも、その背後で絶えず不穏な音が響いています。アウシュヴィッツの収容所からの音。暮らしている人々はそれを意識していないか。大人には聞こえないかもしれないけれど、子供たちは感じているに違いない。そう感じさせるシーンもあります。

 

音だけで残酷さを感じさせるーこれほどサウンドが効果的に使われている映画を知りません。映像も、美しさだけではなく、モノクロ反転で子供の夢(?)を描いたり、とても凝っていました。

 

シネマナビ!で吾郎さんも言及していますが、妻を演じたザンドラ・ヒュラーが『落下の解剖学』とは違う個性を見せていました。隣での収容所で行われていることに興味がない、ユダヤ人は人間と思っていない、そんな当時のナチスの考え方を体現しているようで、ある意味一番怖い人物でした。

 

残酷なシーンは一つもないのに、人の残酷さがしみじみ伝わってくる作品、こんな描き方もあるのだと目からうろこでした。

 

シネマナビ!で印象に残った一言:

「どこか淡々とした印象だし、何だか無機質なジオラマを俯瞰している気持ちになってきます。人間ってものがどんな生き物なのかを、眺めているような感じ。それが本当に巧み。」

 

 

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