劇場を出た後、誰かと語りあいたくなってしまう作品でした。

夜明けの家で目覚めた女性クラリスは、眠る夫や子供部屋の子供たちを見やった後、ガレージから古い車を出して家から走り去っていきます。主婦が家出する話かと思いきや、次々と意外なシーンが描かれていき、一見脈絡のない短編集のような物語が次第に形を成し始めます。

 

時代を行き来する作りの作品は時々あるけれど、服装や外見などでそのシーンがどの時代なのかがわかるように描いているのが普通だと思うのです。この作品はそれがよくわからないようになっていて、どこに連れていかれるのか最初は迷子になってしまいました。物語が進むにつれて、同じような舞台が表れ、次第にジグソーパズルのピースを組み合わせて完成していくような感覚を味わいました。

 

クラリスを演じたヴィッキー・クリーブスが心に残りました。どういう順番で撮影するにせよ、とても難しい役柄だったのではないかと思います。娘のルーシーと息子ポールが美しい子たちなのも、訴えかけてくるものがあって、監督の配役がうまいなと思いました。

 

ルーシーがピアノを習っていることもあり、クラシックのピアノ曲がたくさん登場して、シーンを効果的に盛り上げていました。

 

物語がだんだん明らかになってはいくけれど、最後まで見逃して拾いきれないピースがあるようにも感じてしまった。果たして自分の考えていることが正しいのかだろうかと迷ってしまいます。でもそんなことにこだわらず、自分の中にあふれた思いを素直に受け取ればいいのかなとも感じました。

 

シネマナビ!で邦題の意味がじわじわくると吾郎さんが言っていますが、原題のSerre moi fort(強く抱きしめて)も、なかなか含蓄に富んでいます。どちらも捨てがたいなと思いました。

 

シネマナビ!で印象に残った一言:

「自分が映画監督だったら一回はこういうものに挑戦したいだろうなと思います。」

本作品監督のマチュー・アマルリックは俳優としても素晴らしい活躍をしているし、吾郎さんの尊敬するクリント・イーストウッドも両方でたくさん作品を残していますものね。吾郎さんご自身もいつか監督をやってみようと思う日が来るとは限らないんじゃないかって、ちょっと思ってしまいました。

 

 

シネマナビ!の感想は:

〒104-8003 東京都中央区銀座3-13-10

株式会社マガジンハウス

anan編集部

シネマナビ!ご担当宛