冷蔵庫を開け、ビールを取る



プルタブを開けると、プシュッと小気味いい音をたてた



グイッと流し込めば、今日までの82日間の撮影期間が

走馬灯のように・・・



「終わってしまえば、あっという間だったな」



初めての月9と呼ばれる枠

しかも、主役

感じるプレッシャーはハンパなかった

その中で、まるで実の家族のように接してくれていた

俳優たちとの別れを

本当に惜しんで帰って来た




何気なくスマホを手に取れば、通知が来ていた


通知内容も確認せず開く





『ドラマ撮影おつかれさま



今日までだったよな



最終回


放送楽しみにしているよ



当日はまともに見られないから


録画になるけど



俺やニノがニット帽の男説が出ているみたいだけど


おもしろいよな、全然違うのに






で、


結局


雅紀がストーカーなんだろ?』






「んな訳ないじゃん」


と悪態はつくけど


笑みがこぼれる


笑み、というか多分ニヤけているはずだ



誰が見ている訳でもないけど

急に恥ずかしくなって、慌てて手にしているビールを飲み干した



知っていてくれたいたことが、とにかくとにかく嬉しくて

このメールを打っているときは、俺のことを考えていてくれたってことで・・・




「しょーちゃん、ありがとう




ダイスキだよ




・・・てか、愛してる」




絶対に他人には、ましてや本人には云えないけど


独りつぶやいて



『翔ちゃん、おつかれさま


ありがとうね・・・  』



で始まる、ありきたりな返信を打つべく

スマホに向かった







「10分後再開で~す!申し訳ございません!少々お待ちください!」


某ニュース番組のロケ取材で、都内某所の川沿いに来ている

少し待ち時間、今にも雨が降ってきそう


「一旦、バスに戻りましょう」


スタッフが気を使って声をかけてくれた


「少し散策してきてもいいですか?」


なかなかない機会だから少し歩いてみたい

周りに人もいない


「あまり遠くに行かないでくださいね、すぐ再開ですから」

「わかりました」


少し歩く


この川の遊歩道には櫻の木があって

強風でその花びらが吹雪のように舞っている


この前の音楽番組で新曲を披露したときみたいだな

そんなことを思い出した


川面に花びらのじゅうたん


今年もまともな花見ができなかった


ふと想う


貴方も何かの機会があって

この花を見ていないかな


ほんの少しでいいから

俺のことを想い出してくれないかな


もうかなり葉櫻になってしまった


あ、ふたりの名前が並んでいるな

思わずにやけてしまった



「再開しま~す!さくらいさ~ん!」



今年の花見は終わりだ

さて、行ってきますか










今年も櫻が咲いた


今の家の近くの公園には櫻の木がある


ソメイヨシノと呼ばれる櫻しか知らなかった俺は

引っ越してきたこの地で初めて知った


櫻と葉が同居するこの木を


花が少し先に咲いて

追うように葉が咲く


俺をいつも優しい笑顔で待ってくれている



彼のようだ



オフで会えない今日は


せめて


会いに行こうあの木に


寄り添っていられたらいいな

ずっと

櫻みたいに儚くなく


いつか伝えたい想いを

この木に託すよ