Side:A
それぞれ学年がいっこずつちがう、
大学で出会った僕たち3人
・・しょうちゃんは僕より学年がひとつ上で、
カズは僕より学年がひとつ下・・は、
サークルが同じことで知り合って、
そこからびっくりするくらいに
一緒にいることが当たり前になっていった。
それは、「運命」という言葉が
自分たちのためにあったのだと思うくらいに。
なかでも僕としょうちゃんは
出会ったその瞬間、
互いに静かな衝撃を受けてしまって、
絡んだ視線をそのままで
しばらくその場から動けなくなるほどだった。
それまで別の生徒を見ていたしょうちゃんのおっきな瞳が
まるでとらえるようにしてこちらに気づくまでの、
ほんのわずかな時間。
それまでとここからが
圧倒的に変わってしまう、あの瞬間を
僕はきっと一生、
忘れることができない。
あのとき。
あの瞬間から僕たちの物語は始まったのだから。
それは大学の食堂なんていう、
色気も華やかさもめずらしさもない場所だったけれど、
僕の・・・いや、
僕たちの一生を決める場所としては十分だった。
だって、そこには
見えないもので手繰り寄せられた
「僕たち」がいたのだから。
***
「おはようございます」
いつもの小さなスーパーによって、
食材を購入する。
もともと地元ではない、
この土地に喫茶店を開いたのはもちろん、
しょうちゃんの存在があったからだ。
大学に入りたてのころ、
とくにやりたいことなんて思いつかなくて
これまでの人生がすべて「流されていた」ように、
それが正しい道かのごとくみんなと同じく就活をして
どうにか滑りこめた会社に就職するのだと思っていた。
けれども
しょうちゃんと運命をわかちあってしまった自分は
気づけばいまもこの場所にいて、
予想もできなかった
喫茶店の店主なんてことを生業にしている。
青果売り場のいちごがとても美味しそうで思わず手に取ると、
頭の中に笑顔のしょうちゃんと、さらにはカズまでもが現れて、
思わず顔がほころぶ。
「コーヒーに合いそう」
ひとりつぶやきながら、
いちごのパックを3つ、丁寧にかごに入れた。