年老いた母との定期的な僻地生活

 

 

70代までの母は、何事にも精力的でポジティブ

地域活動や旅行にも積極的だった。

 

家庭菜園ではたくさんの野菜を栽培し

いつも山盛りのお裾分けをもらっていた。

 

母が漬けてくれた漬物や梅干しは

私にとっては絶品だった。

 

 

亡き父のネクタイで作ったポーチ

古い着物で作った手提げバッグ

様々な種類の毛糸で編んだセーターに帽子、室内ソックス

はたまたお地蔵さんの帽子にマフラーまで

 

時間を見つけては何かを作っていた。

 

 

80歳を超え

いつ頃からだろうか

料理をするのが苦手になり

ものを作らなくなり

いろいろなことへの意欲を失っていった。

 

 

 

認知症との診断を受け

6~7年が経つ。

 

 

最近では

認知機能の衰えが激しく

つい先ほどの電話、話した相手のことも忘れてしまう。

 

テレビを見ても 目に入った映像やテロップには反応するが

解説やドラマの内容などは

もう理解が難しい。

 

 

縁側に向かい合って座っていても

会話が続かず沈黙してしまう。

 

少し前まではよく話題に出てきていた

戦時中や終戦の時のことも

もうほとんど話さない。

 

ただただ

目の前のこと

目の前の文字・映像・言葉

そのことへの驚き・喜び・怒り

それに尽きる。

 

 

子どもの頃も、それからも

何事にも厳しかった母。

記憶のほとんどは叱られたこと。

 

今は

 

私の用意した食事を前に

「わー、ご馳走。ありがとうございます。」

 

入浴介助をすれば

「体まで洗ってもらって、何て幸せだろう。」

 

寝る前には

「今日も一日、ありがとうございました。」

 

…感謝される言葉が

だんだん他人行儀になる。

 

 

歩くことが大切だと

夕方には散歩に連れ出す。

 

ゆっくりゆっくり歩くので

短い散歩道でもかなりの時間がかかる。

おまけに

お地蔵さんの前に来ては長いこと立ち止まり

「お地蔵さん、ありがとうございます。」

…このお地蔵さん、夏でも母の作った帽子とマフラーを身に付けている。

 

 

 

これまで共有してきた家族としての記憶が

だんだんと交わらなくなる。

 

共有できる世界がだんだんと狭まり

寄り添っていながらも感じる孤独。

 

 

近所の人の噂話も

ここで生活してきた昔話も

もう、自らは語らなくなった。

 

こちらが話題に上らせても

そのことを思い出せず

「この頃、頭がどうかしとる」

と、苦しそうな顔をして頭を抱え込む。

 

 

大丈夫…

人間、目の前の楽しいことだけ分かればそれで幸せ。

嫌なことや辛いことだらけの過去を忘れられることは幸せ。

大事なことは私たちが覚えているから…。

 

そう言うと、安心して笑う。

 

 

 

しかし

夜になると

私はふと不安になる。

 

この家に誰もいなくなる日は

そう遠くはないのかもしれない…と。

 

 

交わる話題がほとんどない母との暮らしは

労働としての大変さよりも

精神的な負担が大きいのかもしれない。

 

 

 

もみじ  コスモス  もみじ  コスモス  もみじ  コスモス  もみじ

 

 

 

普段、あまりテレビを見ない私だが、

母が寝た後にスイッチを付けてみた。

 

ちょうどミュージックステーションをやっていたから。

 

ボリュームを落として聞いた。

 

 

時間的にToshlさんのHeroは聞けなかったが

Toshl三択には間に合った。

 

 

最近の歌は

私には馴染みがないが…

Toshlさんの歌の素晴らしさは言うまでもないが…

 

これまでも

そして 今も


Toshlさんの生き様が

私を励ましてくれる。

 

 

精一杯の力で

その素晴らしい歌声を

まっすぐな笑顔と共に

私に届けてくださる。

 

 

その姿

その生き様が


へこんだ私の心を

温かく潤してくれる。

 

 

幾十年も見てきたToshlさんの生き様

 

バンドでの輝かしい活躍の時も

想像を絶する苦悶の時代も

つかの間のバンド再生の時も

その後に訪れた更なる苦悶の時も

 

どんなときでも

偽りなく

奢ることなく

真摯に

自分のできることを

最大の努力で示してくださる

Toshlさんのその生き様が

 

今更ながら

私の心に染みる。

 

 

 

 

人生の終わりに

ひとは何を残すのか…。

 

過去の記憶の多くを失いつつある母は

己の生き様を通して

「人としての生き方」への問いを投げかける。

 

 

 

虚飾はいらない

作られた感動はいらない

空虚なきれいごとなど言って欲しくはない

人からの称賛なども求めない

 

ただただ

自分にできることを

誰かのために

朴訥に

 

 

 

スター  スター  スター  スター  スター  スター

 

 

今日、私の手元に

 

「I M A SINGER vol.3」

 

届きました。




 

今、まっさらな赤と黒の円盤を眺めながら

 

Toshlさんのこれまでの生き様の一端を思い起こし

 

心からのお祝いを申し上げたいと思います。

 

新アルバムリリース おめでとうございます。音符花束

 

 

 

そして、この歌声を届けてくださり

 

ありがとうございます。キラキラ花束