淡々と健一が始めました。
『実はさ母親が定期的に地元に戻るから何かあるかなって?思って聞いたんだ…そしたら弟の事で帰ってたらしい…』
健一には歳の離れた弟がいます。この弟さんの事でいろいろとあるようでした。
(私と健一の関係にはあまり関係ないのと、大っぴらに人様に言える話ではないので、ここで詳しく書く事は差し換えたいと思います)

『いろいろ考えたんだ。ここにいても先が見えてる。だからみんなで心機一転、地元で暮らそうかと思って』
私にはよく理解出来ません
『弟さんのことはわかったけど…でもそうして今の会社を辞めてまで戻らなくちゃいけないの?』
『今の会社に不満があるのは知ってるだろ?』
『それは知ってるけど…だから辞めるっていうのは違わない?』
『それだけじゃないんだ。今ここで決めないといけないって思ってるんだ。借金の件もあるし…』
『今は学校に行ってないんだよね?なら前の状態に戻してもらえないの?仕事内容はほとんど変わらないんだし?』
『そんな都合のいいこと言えないよ』
『だって辞めたって…今の御時世なかなか望む仕事なんてないよ』
『わかってる。だから探してるよ』
『地元だってなかなかないでしょう?』
『家族は地元に戻るけど俺は違う場所に行くことになると思う』
『なら今のところにいても変わらないじゃんか?』
話が堂々回りでなかなか進みません。
『俺は決めたんだ。由実香がなんと言っても今の会社を辞めて関東へ帰る』
『健ちゃん甘いよ、絶対に考えが甘いって』
『どうして…俺は少しでも由実香の近くに行きたいって思ってるんだ。なんでその気持ちが伝わらないんだ』
そんな健一の気持ちなんてわかっているんです。でもそんな気持ちで健一のこの先の一生を決めて欲しくなかった。
30を目の前にして男としてこの先仕事は大切になって来ます。
そんななかで転職はどうしても賛成が出来なかった。
どこか不安があったのです。すんなり近くに来てくれると喜べない気持ちがありました。
『そんな事はわかってる…でも賛成出来ない。きっと後悔する。みんなで一緒に暮らすというならいいけど…健ちゃんだけ別になるなら賛成出来ない。だって今、会社やめたら逃げる事にならない?自分の夢だった資格を取る事を断念して…会社までやめたら…絶対に後悔する』
『どうして後悔するの?後悔なんてしない。逆に今、行動しなかったらその方が後悔する。絶対に曲げない』
『○○さんはなんて言ってるの?社長には話したの?』
『○○さんにはちゃんと話して、ようやくわかって貰えた。社長にはこれから話す』
『なら社長に話してそれからまた話しよう。それまで私も考えるから。でもきっと変わらないとは思う』
『由実香がなんと言っても変わらない。年が開けたら関東に帰る。少しでも近くに行きたい。今のままじゃダメなんだ』
気づけば外はもう明るくなっていました。

健一の気持ちはわかるんです。
地図上で見れば1000kmも離れています。少しでも近くになりたい。近くに居たい。
でもそれだけの気持ちで…仕事変えて、住むところまで変えてしまっていいのでしょうか?
健一の気持ちは嬉しいけれど素直に喜べない私…
けれどこの事が私自身の気持ちに大きな変化をもたらしました。

そんな中で娘の七五三のお祝をする事になりました。
お家で実家の母に産まれたお祝にと貰った着物を着せて、髪も桃割れに結って近くの神社へ向かいます。
小さく産まれて心配をしましたがここまで健康で大きな病気も怪我もなく健やかに育ってくれた事が嬉しくて堪りませんでした。
姑と実家の母と私と旦那と娘でお払いをしてもらい。写真を撮って、家で親戚を呼んでのお祝になりました。
けれど私の心にはどうしてこの席に健一がいないのか…嬉しいはずの祝いの席もなんだか少し物悲しいものでした。
けれどそんな事は私の勝手な思いです。せっかくのお祝い…少しでも写真を多くとって健一に渡そうと…そしていつかこういう席に健一が一緒に並んでいる事を夢みた瞬間でした。