王子様のプロポーズ Kaya's nobels

王子様のプロポーズ Kaya's nobels

ワンライやら書きたくなったものやら、小話ちょこちょこ載せていきます
基本的に王子様のプロポーズⅠ&ⅡGREE版

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澄み渡る青空に、過ごしやすいうららかな陽気。


そんな日である今日、正に世界中が注目する世紀のロイヤルウエディングで。



俺の大切な人が、輝かしい門出を迎える。





「はい、どうぞ」


コンコン、と少しだけ急くような、弾むようなオリバーのノックに、部屋の中の人物は落ち着いたトーンで返事をして。

前に居並ぶオリバーやシオン、ケヴィンに遅れること数秒、部屋に足を踏み入れて、俺は思わず息を呑んだ。


「あ、皆さん!わざわざ来てくださったんですね」


窓から降りそそぐ陽の光にキラキラとティアラを照らしながら、純白のドレスに身を包んだ彼女がゆっくりと立ち上がる。


「本日は遠い所からのご列席、ありがとうございます」
「………」
「…あの…?」
「佳椰ちゃん…すっっっごく綺麗‼︎」
「きゃっ…オ、オリバー王子」


図々しくも佳椰に抱きついたオリバーを、すかさずクオンが引き剥がして。

その姿に苦笑している彼女から、目が離せない。


「天使っていうより…女神だね~」
「ふふ、大げさですよ」
「いや、綺麗だぞ。化粧とドレスのバランスも良い」
「ジーク様にそう言って頂けると、自信がつきます」


楽しそうに、嬉しそうに、華やかに笑う彼女は。
今まで俺が見てきたどの彼女とも違くて、俺が見てきたどの彼女よりも、神聖なほど美しかった。


「ほらほら、ヘリたんも黙ってないで何か言ってあげなよ~」
「…君たちがうるさいから言いそびれたんだけど」


オリバーに声をかけられて、初めてハッとなって。
それを悟られないように平常心と、いつものポーカーフェイスを心掛けて、そっと彼女の前に歩み出る。


「…座って」
「え…?」
「ベール…少しずれてるから、直す」
「あ、す、すいません、ありがとうございます」


なんて、俺と彼女の身長差ならそんなものを直すなんて、容易いことなのに。
あえて座らせたのは、きっと、どこかで透けてしまいそうな…情けない顔の自分を近くで見られたくなかったから。


「おめでとう…すごく綺麗だ」
「ありがとうございます…あ、今日はフィリップの大司教様が進行をしてくださるんですよね」
「主役の1人であるノーブル城主が、自分の式の進行をするわけにはいかないからね」


そう茶化すように言いながら軽くベールを直していると、素直に座っている彼女も、おかしそうにクスクスと笑う。


「思ったよりも落ち着いているね」
「そんなことないですよ。緊張で、さっきから手の震えが」


ほら、と純白のドレスとお揃いの手袋に身を包んだ細い手を掲げてみせる彼女の両手は、確かにわずかに震えているように見えた。


「君なら大丈夫。あんなにダンスやマナーの特訓をしたんだからね」
「ボロが出ないといいんですけど…」
「これまで何度も、リュオのパートナーを務める君を見てきた俺が保証する。大丈夫だ」
「ヘンリー様…ありがとうございます」


長い睫毛を少しだけふせて、口元をやわらかに緩めて微笑む彼女に気安く手を触れられるのは、今日が最後だ。


「君にこうやって触れられるのも…今日で最後だね」
「え…?」
「式を挙げれば、君は同盟国を統べるノーブル城主の妻…ノーブルミッシェル14世妃だ。同盟国の一国の王子にすぎない俺は、君よりも身分が下になる」
「っあの、ヘンリーさ」
「黙って…」


そっと人差し指を彼女のやわらかな唇にあてると、彼女は複雑そうな、悲しみや寂しさをにじませた瞳をゆらゆらと揺らしている。


「もちろん、君さえよければ関係は今まで通りだ。リュオとも何だかんだで、垣根はあまりないしね」
「あの…」
「ただね、公式の場はそうはいかない。俺は、君を下座から仰ぎ見るしかなくなる」


そう、例え数年続いた関係でも、超えてはならないものがある。

それが例え、どんなに酷なことでも。


「だから…今日までの俺と君との関係には、さよならだ」
「…ヘンリー様」


彼女を通して、これは自分自身への訓戒だ。

彼女に焦がれた淡い想いは、今日ここで、すべて断ち切らなければならない。


「親愛なる君へ、心からの祝福を」


彼女の頬に、そっと触れるだけのキスを落とす。

胸が締め付けられるような、少しだけ切ない、さよならのキス。


「…ひとりの、友人として」
「…ありがとうございます。…ヘンリー王子」


そう言って微笑んでみせた彼女は、世界中の誰よりも、綺麗だった。


「そろそろ俺は行くよ。…また後で」
「はい、…ありがとうございました」
「あれっ、ヘリたんもういくのー?」


彼女に背を向けて。
やいのやいのと騒いでいる彼らの中で、呑気な声を上げるオリバーの横っ腹に、渾身の一撃をお見舞いしてやる。


「いっっ、たぁぁぁ‼︎え、なに!なんで⁉︎」
「まだ未婚とはいえ、恐れ多くもノーブル14世妃に抱きつくなんて身の程を知りなよ」
「え、なにそのすごい時間差⁉︎」


ぎゃーぎゃーとわめくオリバーの横をすり抜けて、部屋の扉を開いたところで少しだけ振り返る。


「俺、そういうのは律儀にきっちり返してく方だから」
「え~ヘリたんにやったわけじゃないのに…」
「付き合い長いんだからわかれよ、オリバーカ」
「クオン…!い、いま、オリバーカって…!」
「オリバーカ」
「バーカ」
「ちょ、なんでシオンとアスランまでそんなこと言っ」


バタン

背後の喧騒をかき消すように、少しだけ強めに扉を閉めて。

ほんの短いため息をつきながら、中から漏れ聞こえる彼女の笑い声に、そっと瞳を閉じる。


彼女の笑顔が、言葉が、自分の立場に腐る俺の道標だった。
支えで、光で、希望で。

大切に育てた花のような、想い。

それを今、役目を終えるように花弁を散らす。
次に瞳を開けたら、俺は新しい、俺だ。


「…そろそろ行こう」



澄み渡る青空に、過ごしやすいうららかな陽気。


そんな日である今日、正に世界中が注目する世紀のロイヤルウエディングで。




俺の大切な、

ーー大切な"友人"が、輝かしい門出を迎える。





届かない距離
(大切な君へ、ありがとう)



16.04.30