運命の恋 29 | 感謝を込めて花束をあなたに

感謝を込めて花束をあなたに

ごとう先生に、その物語に感謝します。
沢山の妄想をありがとう。
そして、これからも、やめられないでしょう。

このブログは完全なる自己満足です。
故に、誰の理解も求めてはいません。
興味本位、のぞき見のつもりお願いします。

ギイは船内を彷徨っていた。
佐智がサロンコンサートの打ち合わせに出掛けてている間もラウンジやレストラン、フィットネス用のスタジオやスポーツ施設、甲板プールやティールームにサロン、劇場にカジノ、商業施設。
広く豪華な船内を託生が行かないであろうと思われる所さえも覗いて歩いた。
あまりの広さに何処かで休憩したいとも思うが、その時間も勿体ないと思ってしまう。
そして、バイオリンの音につい釣られてしまったりもした。
何処かで託生がバイオリンを弾いているような気がしたからだ。
バイオリンの音に釣られてまだ準備中の劇場を覗き込んだり、ティールームのBGMにふらふらと引かれたりした。
そうしてがっかりしている自分に苦笑する。
何を焦っているのだろうと自分の行動にギイは呆れるしかなかった。
この船のVIPであるならこんな風にフラフラと船内を彷徨っていたりしない筈だ。
案内係が人払いした一番眺めの良い場所に案内しているだろう。
そう言う集団が通れば勿論、噂になるのだからそれを待って動けばいいのだとわかっている。
しかし、じっとしていらなかった。
一刻も早く自分で探し当てたいと切望している自分がいるのだ。

託生。

船の中心の広いロビーでギイは天井を仰いだ。
美しいクリスタルのシャンデリアが吊るされた天井にも細かい彫刻が施されている。 

この船に乗っていてくれとギイは願った。
この天井の下にいて欲しい。
今晩、ここで佐智のコンサートが予定されている。
階段の広い踊り場で佐智はバイオリンを弾く。
盛大なパーティーになるだろう。
その時、必ず此処に来て佐智のバイオリンを聴いていてくれ。
お前、好きだっただろう。
俺といるより佐智といる方が嬉しそうだった。
頬を紅く染めて佐智を見つめていたお前にどれだけ俺が嫉妬したか。


託生。


今すぐ、お前に会いたいよ。




「誰かを探しているんですか?」
佐智のサロンコンサートの中、会場を彷徨っていたギイに声が掛けられた。
振り返ると綺麗に着飾った若い女性だった。
上流階層のお嬢様のように思える。
佐智のサロンコンサートは船内のあちこちで行われるているパーティーの中で一番の人気らしく広いロビー内は思いもよらない程人で溢れていた。
本来、ダンスをする為に空いている筈のロビーの中心も人が溢れてすぎて踊れる空間がない程だった。
その人混みを掻き分け掻き分けてギイは託生を探していたが、椅子の少ないパーティー会場は人が動いて探し人をするのは困難だった。
その会場でサチ・イノウエの演奏を聴きもしないでウロウロしているギイを不思議に思ったのだろう。
おっとりとした親切そうなお嬢様がギイに声を掛けて来た。
ギイは最初、面倒だと無視するつもりだったが、女性の上流階層然とした佇まいに気がつくと意を決して足を止めた。
「ええ、人を探しているんです。
この船に乗っていると聞いたので。
リツ・オガタを見ませんでしたか?」
ギイの言葉にお嬢様はキョトンとした顔をした。
その表情にああ、見込み違いかとギイはガッカリした。
上流階層の人間ならオガタの事を知っている筈だと思ったのだ。
上品そうに見えたが違ったかと舌打ちしたくなる。
「オガタ家なら日本へバカンスに出掛けると聞いています。
貴方もオガタにお近づきになりたかったのかしら?
残念でしたわ。
そう言う考えの方は次の港で乗船すると話題になっていたのですけど、情報が行かない方も此処にはいらっしゃるのね」
ヨーロッパで名家のお嬢様なのだろう。
優雅に微笑むとギイに残念でしたわねと上品に同情した。





「もう、ホウジュ、遅いわ!
飛行機に置いていかれるかと思ったわよ」
漸く空港のサロンに顔を出した宝珠にフランシーヌが文句を言った。
「さあ、行きましょう。
ふたり共、久しぶりの日本でしょう。
私を案内して頂戴ね」
フランシーヌはご機嫌な様子で宝珠と律の間で腕を組んだ。