皆さんこんにちは。
前回はお花が元気になった所まででしたね。
それではさっそく
【ゆりちゃん・その3】をどうぞ。
ポシェットから除く花束の花弁は、
心なしか元気になったように見える。
雨宮愛海
「行こうよ、お兄ちゃん!」
那津美さんに見送られて、
俺と愛海は店を出た……
黒兎を出ると、外はすっかり暮れていた。
雨宮愛海
「お兄ちゃん、早く早く!」
雨宮愛海
「ゆりちゃん待ってるよ!」
雨宮誠二
「おい、そう慌てんなよ……」
雨宮愛海
「先に行ってるね!」
愛海は高架下の方向に走っていった。
ずいぶん急いでいるようにも見える。
雨宮誠二
「別に逃げやしないだろうが……」
高架下に入った途端、
肌にひりひりとする気配を感じた。
雨宮誠二
「 (なんだ? この違和感は……) 」
まるで暗がりの中から、
誰かにじっと監視されているような……
そんな絡みつくような感覚だった。
雨宮愛海
「どうしたの?」
雨宮誠二
「いや、なんでもない」
愛海にはそう言ったものの、
明らかに異様な気配を感じる……
雨宮誠二
「 (嫌な感じだ……) 」
五感が警告を発していた……
【怪異ファイル ゆりちゃん】が更新されました。
ここまで来たらあとは事故現場……
花瓶のある場所まで進むだけです。
花瓶のある場所までやって来た。
雨宮愛海
「ゆりちゃん……待たせてごめんね」
雨宮愛海
「ちゃんとお花を買ってきたよ」
愛海は亡くなった友人が
そこにいるかのように語りかけた。
雨宮愛海
「薫ちゃんとお兄ちゃんといっしょに、
いろんなお花を選んで来たんだ」
雨宮愛海
「とっても綺麗でいい匂いだよね……」
雨宮愛海
「ゆりちゃんも……喜んでくれるといいな……」
雨宮誠二
「…………」
雨宮誠二
「愛海、さっさと花を供えて帰ろうか。
いい時間だしな」
雨宮愛海
「うん!」
愛海は花束を花瓶の近くに置いた。
しなびているとはいえ、供えられた花を抜くのは
忍びなかったのだろう。
しゃがみ込んで手を合わせる愛海の横に並び、
しばらく冥福を祈った。
普段なら町の音が響いてる場所のはずだが……
辺りはやけに静まり返っており、
まるで耳が遠くなったようだった。
あまりの静けさが逆に気になり、
何か聞こえないかと耳を澄ます。
そのときだった!
雨宮愛海
「? 何か言った?」
不意に愛海がこちらを向いた。
雨宮誠二
「? 別に何も」
雨宮愛海
「え……それじゃ、今のは……」
「あ……あみ……ゃん」
雨宮誠二
「!?」
はっきりとしない、濁った声が
暗がりから響いた。
じっと声のした方を睨むと……
ぼんやりとした影が、そこに立っていた。
声は何か語り掛けてくる。
声
「あ、あみ…ゃん…にげて……でないと……」
雨宮愛海
「でないと……?」
声
「で、でない、でないと……
こ、こ、ころ、ころす……ッ!!」
高架の奥に、一台の大型車が現れた。
それは減速することもなく、
躊躇なくこちらへと向かってくる。
雨宮誠二
「愛海、走れっ!!」
雨宮愛海
「ど、どうして?
なんで追いかけて来るの!?」
雨宮誠二
「いいから走れ! 駅前に出れば安全だ」
走りながら、背後を確認する。
大型車はまっすぐにこちらを追いかけて来る。
雨宮誠二
「 (正気かよ……) 」
雨宮誠二
「 (本気で俺たちを狙ってるのか?) 」
雨宮愛海
「つ、疲れて来たよ……」
雨宮誠二
「がんばれ! あと少しで駅前……」
そうだ、走ればすぐに駅前の広場だ。
そのはずなのだが……
雨宮誠二
「!?」
信じられないものが目に映り、思わず振り向いた。
雨宮誠二
「嘘だろ……」
ぐらりと目の前の光景がゆらぐ。
そこにはあの花瓶と、
さっき愛海が供えた花束があった。
雨宮愛海
「え……なんで……?
な、なんでまた、ここに戻って来てるの?」
雨宮誠二
「愛海! 行くぞ!」
もうどれだけ走っただろうか……
しかし、一向にこの高架下から
抜けられる気配はない。
雨宮誠二
「くそっ! どうなってんだよ、おいっ!!」
叫び声が空しくコンクリートに反響した。
雨宮愛海
「あっ……!!」
悲鳴を上げて愛海が道路に倒れ込んだ。
体力の限界が近いようだ。
雨宮誠二
「愛海ッ!!」
雨宮誠二
「 (いや、待て……落ち着け……) 」
煮え立つような焦りと緊迫感……
そしてそれを冷静に観察する自分自身……
この感覚……試合の時とよく似ている……
雨宮誠二
「ただ戻るだけじゃ間に合わない……
2人とも車に……」
沸騰寸前の頭をクールダウンさせながら、
迫ってくるライトを目測する。
雨宮誠二
「 (距離訳50メートル、使える時間は数秒。
助けに行けば、追いつかれる……) 」
雨宮誠二
「(だとすれば、この場ですぐ、
愛海の安全を確保する必要があるな)」
そうだ、考えろ……考えるんだ……
俺はいつも……
雨宮誠二
「……そうやって勝って来た」
雨宮誠二
「時間はない……考えろ……
まずは愛海をどこかへ逃がすか、だ」
さて、初サバイバルエスケープの開始。
まずはScene1からです。
愛海ちゃんの安全確保が最優先命題ですね。
周りに何か都合のよさそうなものは……??
【サバイバルエスケープ】
異質なものと遭遇し生命の危機が迫ると
サバイバルエスケープが始まります。
使用するアイテムとスポットの
正しい組み合わせを見つけ出しましょう。
もし選択を誤れば命を失い、その場で
ゲームオーバーとなってしまいます。
アイテム選択中×ボタンを押すことで
スポット選択をやり直せます。
まずは暴走車から愛海を逃がしましょう。
雨宮誠二
「側溝があるが、浅すぎる……
ここには愛海でも隠れられない」
そのとき、中に何か転がっているのに気づいた。
雨宮誠二
「中にあるのは、バールか……?」
雨宮誠二
「拾えば何かに使えるはずだ」
【バール】を入手した。
首尾よくバールを入手したら、
次は周囲のシャッターに目を向けてみましょう。
どこかにバールが役立ちそうな所は……?
郵便受けのすぐ近くのシャッターを調べてみます。
雨宮誠二
「店の倉庫だ……
シャッターは破損しているのが見える」
雨宮誠二
「何かで破れば、逃げ込めるかもしれない」
ここで使えそうなのはバールですね。
アイテムからバールを選択して
そのまま実行してみましょう。
雨宮誠二
「愛海っ!!」
倒れている愛海に声を掛けつつ、
手に持ったバールで……
そのままシャッターの亀裂めがけて
バールを振り下した。
雨宮誠二
「 (よし、噛んだ) 」
バールを支点に、テコを使ってシャッターを
力任せに捲り上げる。
雨宮誠二
「愛海ッ! 入れ!」
雨宮愛海
「う、うん……!」
雨宮誠二
「急げッ!!」
バールをシャッターに突き刺したまま、
愛海の体を穴から奥へと押し込んだ。
雨宮誠二
「!!」
半身に光を浴び、咄嗟に背後を確認する。
大型車は、もう目前に迫っていた。
サバイバルエスケープScene2です。
迫り来る大型車をどうやって避けるか…?
雨宮誠二
「 (時間がない……だが、どこへ逃げる……!?) 」
まずは状況確認も兼ねてフェンスを調べてみます。
雨宮誠二
「乗り越えればフェンスと壁の間に逃げられる。」
雨宮誠二
「ここに逃げ込むか?」
【フェンスを乗り越える】
【やめる】★
どう考えても危険度アップですね。
壁ごと挟まれたらぺしゃんこになってしまいますよ。
というわけでここでは【やめる】を選択します。
次は上の方をくまなく見てると…。
おっ、よさげな場所発見。配管ですか。
雨宮誠二
「配管……
確かに上に逃げれば確実だ」
雨宮誠二
「しかし、どうやってあそこまで飛ぶ?」
さて、踏み台になりそうなもの……
フェンスは壁の近く……
雨宮誠二
「ここを踏み台にして飛べば……」
雨宮誠二
「けど、手が届くかどうかが不安だ……」
雨宮誠二
「それに、足場としては不安定だ。
ミスれば死ぬぞ」
【フェンスを乗り越える】
【足場にして飛ぶ】★
【やめる】
足場にして飛ぶ以外に暴走車をかわせる場所に
いける手段が存在しない以上は、腹をくくって
配管に向かってジャンプするしかありませんね。
雨宮誠二
「フェンスから配管へ飛べば……」
雨宮誠二
「時間がない……賭けてみるか」
雨宮誠二
「うおおおッ!!」
雄叫びと共に走り出す。
バールを手に持ったまま
全力疾走で一気にフェンスを駆け上がり……
そのまま天井の配管へと飛ぶ。
瞬間、フェンスが煽られたようにぐらつき、
わずかに跳躍のタイミングがずれた。
雨宮誠二
「 (くそっ、届けッ!!) 」
塗装の剥がれた配管の感触が、
かすかに指先を撫でたそのとき……
咄嗟に振り上げたバールの屈曲部が、
配管をしっかりと捉えた。
と同時に、足元を掠めるようにして
大型車がフェンスへと突っ込んで来た。
雨宮誠二
「うおっ!?」
大型車は側壁に衝突すると、反動で大きく傾き……
最後はスプリンクラーのように破片をまき散らして
路上へ横転した。
お疲れ様です、これでサバイバルエスケープは
無事終了しました。
地面に下りると、汗が滴となって
アスファルトに落ちた。
雨宮誠二
「今のは……」
雨宮誠二
「……やばかったな」
雨宮誠二
「そうだ、愛海……」
雨宮誠二
「おい、愛海!!無事か!」
呼びかけに応じて、すぐに愛海が
シャッターから出てきた。
その顔は恐怖一色に染まっている。
雨宮愛海
「お兄ちゃん……大丈夫?」
雨宮誠二
「ああ、ギリギリだったがな」
雨宮誠二
「長居は無用だ、さっさと行くぞ」
愛海の腕を握ると、有無を言わせず
引きずるようにして事故現場を後にした。
雨宮愛海
「えっと、お兄ちゃん……」
雨宮愛海
「警察とか病院に電話しなくていいの?」
雨宮愛海
「運転してた人が怪我してるかも……」
こちらを殺そうとした相手の心配とは、
愛海らしい。
さっき目にした、壁に激突して
ひしゃげた大型車の様子を思い出す。
本来なら運転手が無事なわけないが……
雨宮誠二
「中に人がいれば、な」
雨宮愛海
「どういう……意味?」
雨宮誠二
「あの車にはな……」
雨宮誠二
「誰も乗ってなかったんだ」
配管にぶら下がった後、
一瞬だけ車の運転席を見たが……
間違いなく、そこに人はいなかった。
雨宮愛海
「じゃあ、どうして動いたの?」
雨宮誠二
「知るわけないだろ……」
雨宮愛海
「お兄ちゃん、あのね……
車が来る前のことは覚えてる?」
雨宮愛海
「制服を着た子……見えたよね?」
雨宮誠二
「…………」
雨宮愛海
「あれ……ゆりちゃんなのかな…… 」
雨宮愛海
「『ころす』って言ってたよね……」
雨宮愛海
「あの車、もしかしてゆりちゃんが……」
雨宮誠二
「じゃあ……なんだ?」
雨宮誠二
「高村ゆりの幽霊が車を操って、
殺そうとしたとでも言うのか?」
雨宮誠二
「ありえないだろ……」
それならまだ、悪質ないたずらと
考えるほうが現実的だ。
アクセルペダルを固定すれば、
前進だけなら無人でもできる。
雨宮誠二
「 (だが……) 」
女子高生らしい影を見たのは事実だ……
それは否定できない……
雨宮誠二
「 (本当に幽霊なのか……) 」
雨宮愛海
「……あっ!」
雨宮愛海
「お花が……」
花瓶は倒れ、愛海が供えていた花束は
バラバラに引き裂かれていた。
大型車のタイヤに踏み潰されたのだろう。
雨宮愛海
「お花……お供えできなかった……」
雨宮愛海
「私、ゆりちゃんのために来たんだよ……」
雨宮愛海
「でもゆりちゃん……『ころす』って……」
雨宮愛海
「わけ分かんない……ひぐっ……」
愛海は今にも泣きそうな顔をしていた。
雨宮愛海
「ねえ、お兄ちゃん……」
雨宮愛海
「ゆりちゃん……
私が嫌いになったのかな?」
【そうかもしれない】
【そんなことない】★
【分からない】
はい、襲ってくる直前のゆりちゃんの行動を
見れば判りますよね?もし嫌っていたなら
ふつう何かに抗ってまで逃げてとは言いません。
なので【そんなことない】を選択します。
雨宮愛海
「そう……だよね……」
雨宮愛海
「……いたっ!」
愛海は突然、うずくまって脚をおさえた。
見ると、膝が擦りむけて血が滲んでいる。
恐怖が続いていたせいか、
今まで気づかなかったらしい。
雨宮誠二
「歩けるか?」
雨宮愛海
「う、うん…… 」
愛海の声は弱々しかった。
とても大丈夫には見えない。
雨宮誠二
「……世話のやけるやつだ」
雨宮誠二
「ほら、おぶってやるからさっさと掴まれ」
雨宮愛海
「……いいの?」
雨宮誠二
「トロトロされるほうが困るしな」
背中を向けてしゃがむと、
おずおずと、愛海が首元へしがみついてくる。
背中越しに愛海の震えが伝わってくる……
雨宮誠二
「じゃあ、さっさと家に帰るぞ」
雨宮誠二
「突っ走るからちゃんと捕まってろ」
雨宮愛海
「うん……分かった」
愛海を背負ったまま、
人通りのない道を選んで自宅へ向かった。
【怪異ファイル ゆりちゃん】が更新されました。
自宅に戻ると、背中の愛海を床へ下ろす。
雨宮愛海
「あいたっ……」
雨宮誠二
「薬を探しておくから、傷口を洗っとけ」
雨宮誠二
「お湯の出し方くらい分かるだろ」
雨宮愛海
「お兄ちゃんって頼りになるね」
雨宮愛海
「わたし、お兄ちゃんの妹になれて
ほんと良かったな」
雨宮誠二
「……いいからさっさと行ってこい」
雨宮愛海
「うん」
愛海は浴室へ入っていった。
今のうちにこちらも薬箱を探す。
雨宮誠二
「 (どこにしまったっけな……) 」
雨宮誠二
「愛海ッ!?」
………………………………
飛び込んだ浴室には誰もいなかった……
雨宮誠二
「……愛海?」
……もちろん返事はなかった。
浴室は狭く、窓一つない密室だ。
隠れられる場所などない。
雨宮誠二
「 (落ち着け……ここで何が起きた……) 」
湧き上がる焦りを抑え込み、
冷静に状況を把握しようとする……
雨宮誠二
「 (愛海が浴室に入ったのは見たよな……) 」
雨宮誠二
「 (悲鳴だって浴室から聞こえた……) 」
雨宮誠二
「 (なぜいないんだ……おかしいだろッ!) 」
つま先に何か硬いものが当たった。
足下を見ると……
愛海のヘッドホンが落ちていた。
雨宮誠二
「 (この汚れは……) 」
よく見るとハウジングの部分に
赤黒いものがこびりついている。
どうやら血のようだ……
触ってみるとすっかり乾いている。
数時間以内に付いたものではなさそうだ。
だが、ヘッドホンだけがなぜここに……
雨宮誠二
「!?」
「……あみちゃ……お…なえ……」
「……あした……まっ…てて……」
雨宮誠二
「 (なんだ……今のは……) 」
一瞬、何かが見えて……
かすれた声が聞こえたような……
見えたのは……鏡か……
何か映っていたようだが……
雨宮誠二
「 (気のせい……だよな?) 」
浴室を出て家の中を調べてみたが、
もちろん愛海はいなかった。
玄関の鍵もかかったままだ。
靴も残っている。
こちらの目を盗んで、こっそり
出ていったとも考えられない。
愛海は……どこかへ消えてしまった……
雨宮誠二
「 (まさか……神隠しだっていうのか?) 」
神隠し……
そんな言葉が浮かぶのも仕方ないだろう……
この不可解な状況を表せる言葉を、
俺は他に知らない……
雨宮誠二
「 (どうする……) 」
雨宮誠二
「 (さっさと警察に連絡……
いや、先に那津美さんか……) 」
澄んだ笛の音が窓の外から聞こえてきた……
雨宮誠二
「笛……?」
高村ゆりの日記を思い出す……
彼女は交通事故で亡くなる前に
黒い葉書を見ている……
そして夜に笛の調べを聞いた……
黒い葉書と笛の音色……
高村ゆりの死と愛海の消失……
偶然の一致にしては出来過ぎだ……
雨宮誠二
「ふざけやがって……」
考えるより先に体が動いていた。
笛の音を追って、街へと飛び出す。
笛の音を追ってひたすら走り続ける……
熱帯夜のせいもあって、
あっという間に全身が汗で濡れた……
ただ笛の音に導かれるようにして、
足を前へ前へと踏み出していく……
無我夢中だった……
どこをどのように走ったのか、
自分でも分からない……
突然、笛の音が止んだ。
気が付くと見知った場所にいた……
薄暗い高架下に証明写真のブース……
変わっている所は何もない……
だが、満ちている空気の質が
今までとはまるで違っている……
思わず息苦しさを覚えるほど……
空気が張り詰めていた……
高架下を強い風が吹き抜けた……
真夏だと言うのに、
不自然なほど冷たい風だった……
そしてじわりと湿っていた……
その薄気味悪さに、
ぞわりと鳥肌が立ってしまう……
雨宮誠二
「 (この感覚……記憶にある……) 」
雨宮誠二
「 (黒い葉書を手にした時と同じだ……) 」
ね え あ そ ぼ
道路沿いの階段に視線を向けると、
幼い少女がこちらを見下ろしていた……
雪のような純白の髪に、
豪華な和装という異様な姿……
背後に広がる都会の風景と
ずいぶんミスマッチに思えた……
少女
「おにいちゃん……かくやと遊ぼ」
少女はあどけない様子で声をかけてきた……
だが、愛らしい表情も小さな口も
まったく動いていない……
まるで人形のようだった……
雨宮誠二
「何者だ……てめぇ……」
緊張のせいか……妙に息苦しい……
声が思うように出ない……
絞り出すようにして、一語一語を口にする……
雨宮誠二
「『かくや』ってのが……名前か?」
少女
「かくやじゃないよ……か『く』やだよ」
『く』の部分の発音が舌足らずな感じで
どうもはっきりしなかった……
もしかすると……
自分では『かぐや』と言ってるつもりなのか?
黒い葉書のなぞなぞの中にも、
『かぐや姫』の名前はあったが……
かくや
「ねぇ……遊ぼ……」
かくや
「遊んでくれないと……消えちゃうよ」
かくや
「おにいちゃんもゆりちゃんみたいに…… 」
雨宮誠二
「高村ゆりは……てめぇが?」
かくや
「かくや……あみちゃんと遊びたかった」
かくや
「だからね……今夜……
ゆりちゃんに手伝ってもらったの」
「あ……あみ……ゃん……」
「にげて……でないと…………」
「………こ、こ、ころ、ころす………」
あれはやはり『高村ゆり』なのか……
そして、このかくやという少女が
どんな手段か分らないが……
高村ゆりを操り、あの車で
俺と愛海を殺そうとした……
雨宮誠二
「 (クソガキが……舐めやがって……) 」
黒い葉書……笛の音……暴走車……愛海の消失……
すべてこいつの仕業だ……
怒りで額の血管がピクピクとひくつき、
歯がガチガチと鳴る……
俺は無意識に拳を固め、かくやに……
雨宮誠二
「ッ!?」
だが金縛りにあったごとく、
身体がピクリとも動かない……
自分の身体が自分のものでないような……
奇妙な感覚に支配されていた……
かくや
「あみちゃんも……消えちゃった」
かくや
「かくやね……次はおにいちゃんと遊ぶの」
かくや
「『うらしま女遊び』……するの」
雨宮誠二
「 (うらしま……女?) 」
かくや
「『うらしま女』を……探してね」
かくや
「もし……遊んでくれなきゃ……」
かくや
「おにいちゃんも……消えちゃうよ」
かくや
「あみちゃんも……帰ってこないよ」
雨宮誠二
「……………………」
雨宮誠二
「この……クソが……」
雨宮誠二
「ふざけやがってよォ……ッ!!」
見えない鎖を断ち切るかのように、
渾身の力を両脚にこめた。
雨宮誠二
「ブッ殺すッ!!」
雨宮誠二
「 (距離は約5メートル……
俺ならひとっ飛びでいける) 」
雨宮誠二
「 (回避される可能性もゼロ。
あんな服装で機敏な動きは無理だ) 」
雨宮誠二
「 (一撃で仕留めるッ!) 」
雨宮誠二
「なっ……!?」
飛びかかった瞬間……
かくやの姿は消えていた……
雨宮誠二
「……………………」
しばらくの間……ただ呆然と
かくやのいた場所を眺めていた……
今の出来事は……本当に現実なのか……
雨宮誠二
「マジ……かよ……」
嘘みたいな出来事だった……
奇妙な少女に意味不明の言葉……
すべてが現実離れしている……
だがあの冷たい笛の音は……
今も耳の奥に残っていた……
雨宮誠二
「現実……なのか……」
……那津美さんからの電話だ。
雨宮那津美
「誠二くん! 今どこにいるの!?」
雨宮那津美
「愛海を迎えに来たんだけど……
ドアが開けっぱなしで……心配して……」
雨宮那津美
「ねえ、愛海も一緒なのよね?」
雨宮誠二
「……………………」
言葉に詰まってしまい、
返事をすることができなかった。
これから那津美さんには、
残酷な現実を伝えないといけない。
一度、息を大きく飲み込む。
そして無理やり吐き出すようにして、
重い現実を彼女に伝えた。
雨宮誠二
「……なあ、那津美さん」
雨宮誠二
「落ち着いて聞いてくれ……実は……」
得体のしれない少女『かくや』との遭遇……
その瞬間、慣れ親しんだ日常を失った。
1999年の7月が
まもなく終わろうとするその日……
俺はNGな日々に足を踏み入れる……
日常の終わり
-完-
次回【うらしま女・その1】でお会いいたしましょう(* ᴗ͈ˬᴗ͈)”