私がバルテュスの絵を初めて見たのは1993年。
今はなき旧東京ステーションギャラリーでのバルテュス展でした。
私がその時感じたのは、色使い。そのころは印象派独特の優しく美しい色使いの絵画が
好きだったこともあり、いつも絵を見る時とは立ち位置を変え、正面からまっすぐに向かい
合いたいという思いと、なんとなく懐かしい感じがするという印象でした。


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1993年から20このたび日本で3回目となる展覧会。
2001年に逝去していることもあり大回顧展となりました。
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今回は節子夫人も来日され、バルテュス展に関しての随所でPRをされていましたが、
黒々とした髪といつもお着物姿で登場されることもあり、世界にその名をとどろかせた
画家の奥様が日本人だということに親近感と誇らしさを感じることもしばしば。
この奥様はPRに関してではなく、個人所蔵が多いバルテュスの絵画。様々なところで
所蔵されていた各所からお借りするにあたり、そのネットワークで尽力された
ということでこの回顧展の立役者ともいえるお方です。
今回はスペシャルイベントということで節子夫人もお出ましくださいました。




バルテュスの絵画に多く登場した少女。
バルテュスによれば、少女は子供でも大人でもないという危ういポジションであり
それに魅了される。そして少女は見るたびに変化していくところが面白いという
ようなことをおっしゃっていたそうです。今回ポスターなどで使われている
『夢見るテレーズ』に登場するこのテレーズは、最初に描いた少女。
以降彼女だけでも9点の作品を描いているそうです。
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他にも数多くの少女の買いがを書いていたそうです。
中央の『美しい日々』という手鏡を持つ少女の絵。脇に洗面器が描かれていますが
純潔の象徴としてバルテュスの絵画のひとつの「型」となっているようです。
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『決して来ない時』。
こちらも少女を描いた作品。のけぞる少女は至福の表情で猫を撫でている。
ガウンから伸びた脚が幾何学的な構造を作っている絵となっています。
3つの絵を見ると、椅子に座った少女のすらりと無防備に伸びた脚。
バルテュスの構造の着目点は脚なのか・・・と私は思ってしまいました。
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バルテュスは一枚の絵を描くのに数多くの素描を描いたため
多くの原画となった素描も楽しむことができました。
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これはオデオン広場のレストラン「ラ・メディテラネ」のために描かれた絵画ですが
ここにも少女が描かれていました。バルテュスの絵の中には少女と猫がよく登場します。
バルテュスは猫は人に媚びない優美さが好きで、自分の分身として描いているそうです。
バルテュスは11歳の少年時代からミツという猫の素描を描き続けたというエピソードもあるほどです。
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今回はグランシャレのアトリエを原寸大のまま再現したことも話題となりました。
このアトリエは創作のための清らかな場所。バルテュスは身近な人でもなかなか
招き入れなかったとか。この大きな窓から入り自然光で創造をしていたのですが
光もバルテュスのテーマで、後半に描いた作品はやらかな光を表現しているものも多いとか。
そして、油彩でありなからマット。漆喰のような質感がかつて私には日本の絵画のようと
いう印象を与えてくれたのかもしれません。今回見たのざらざらとした質感は
写真や複製では感じ取ることのできないリアルな光の表情を放っていました。
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備品もアトリエから持ってきて、細部まで再現したそうです。
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会場では篠山紀信氏の撮影した写真も数多く展示されていましたが
この着物姿の写真はかなりインパクトがありました。
独学でありながら模写することで学んだバルテュス。
多くの画家とも交流を持ち、また中国や日本の文化も取り入れたバルテュスは
10歳ぐらいで読んだ岡倉天心の欧米人向け日本入門書
『ザ・ブック・オブ・ティー(茶の本)』が「芸術と私の初めてのセンチメンタル
な出合い」だったというくらい日本びいきの画家であり影響もあったとか。
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クリスチャン・ルブタンによって特別に作られたミュールも今回特別に販売されていました。
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バルテュス展には19万人以上の方々が訪れ大盛況の中幕を閉じようとしています。
まだ見ていない方は、今週末が最後です。複製ではなく生で、
あのざらっとした独特の風合いと光の絵を見てみてくださいませ。




バルテュス展 ~6/22日まで
東京都美術館 企画展示室
東京都台東区上野公園8-36
9:30~17:30(金曜は20:00)、入室は閉室の30分前まで


※会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。