毎日が暑い。日本は熱帯真っ只中だ。「熱帯」の言葉で私が思い出すことは二つある。

ひとつは、昔、東南アジア・南アジアの仕事をしていたときに読んだ「熱帯の歩き方」の本のこと。著書名は忘れたが、主旨は「熱帯では、①昼間出歩くな、②どうしても外出しなければならないときは日陰を探して歩け、③歩くときはゆっくり歩け(1秒/歩)」の3点だ。私は今、極力①②③を励行している。

③に関してだが、初めてコタキナバル(ボルネオ島)やパプアニューギニアの現地人を見たとき、「何と動作が緩慢であることか!」と私は思ったものだが、「熱帯の歩き方」を読んでからは、彼らが緩慢なのはグータラだからではなく、疲れないために自然に身についた生活の知恵だと思うようになった。



もうひとつは、学生時代に見た原作カミュの映画『異邦人』の出だしのシーンである。マルチェロ・マストロヤンニ扮する主人公が白いスーツの上着を肩に掛けて、太陽がジリジリ照りつける(アルジェリアの?)の砂浜を歩きながら、いかにも虚無的に "Aujourd'hui, maman est morte. Ou peut-être hier, je ne sais pas"(今日母親が亡くなった。それとも、あれは昨日だったのかなあ)と独り言う。それだけで、この映画は "世の中を斜に見ている男が生きることにいかなる意味があるのか" を問い掛ける映画のように思わせた。それと、この出だしのセリフが簡単なフランス語であるせいか、映画を見て何十年も経つのに妙に覚えているのである。