高市早苗経済安保相は9月の自民党総裁選を睨んで結構精力的に全国各地を講演行脚している。以下に引用する記事によれば、各地の保守系有志が主催した作家兼ジャーナリストの門田隆将氏とのダブル講演で昨年12月2日に福岡市で約1000人、4月13日の大阪市で約2000人、5月12日の高知市で約1000人を集めたそうだ。

https://www.zakzak.co.jp/article/20240516-CQPZG65EARIBFMI33Y2MGECJDQ/2/

今月10日に安倍内閣~菅内閣からの懸案だった "セキュリティ・クリアランス制度" を定めた「重要経済安保情報保護法案」が成立し、高市大臣はある部分では一段落した訳だから、これから総裁選に向かっての活動に拍車がかかるのではあるまいか。既に、6月2日広島市で、7月21日仙台市でセキュリティー・クリアランス制度(SC:適格性評価)の意義についての講演会を行うことが決まっている。



更に、上記記事によると、高市が顧問を勤める「保守団結の会」は、近々、安保政策や少子高齢化対策などを盛り込んだ政策提言を纏めるそうだ。高市は、前回の総裁選で発表した政権構想「日本経済強靭化計画」に保守団結の会が新たに出す政策提言を加味した "新政権構想" を今年8月くらいには出すのではないだろうか。尚、保守団結の会とは、自民党の保守系勉強会「伝統と創造の会」を創設した時からの中核メンバーのうち、伝統的な家族観を重視する議員が新たに結成した党内の議員連盟であり、高鳥修一(前安倍派)、城内実(前森山派)、赤池誠章(参・前安倍派)が代表世話人になっている。下の写真において高市以外の二人は高鳥修一(中央)と赤池誠章(左)と思われる。



巷間総裁候補と言われる人々の中で、高市が最も政策に精通しているし、最もディベート力があるのは万人が認めるところである。また、派閥政治や世襲政治への批判は脱派閥・脱世襲の高市にとっては追い風。だが、高市のアキレス腱は何と言っても支持基盤の脆弱性である。2011年に清和会を脱退して以来無派閥を通しているので仲間が少ない上に(派閥政治が批判されている今日では無派閥は追い風でもあるが)、飲みニケーションをしたり、群れたりするタイプではないので仲間ができ難い。それを補うのは地方講演行脚や党内の政策オリエンティッドな議連やグループだろうが、それだけで必要にして十分とは言えない。

▪地方講演会:講演会だけでは一方通行に終わる。講演会の機会を利用して地方の党員・党友と車座対話をすべきだ。

▪政策オリエンティッドな議連等:具体的には「保守団結の会」(61人)、「"日本のチカラ" 研究会」(約40人)、「責任ある積極財政を推進する政治連盟」(70人)。このうち、責任ある積極財政を推進する政治連盟のメンバーは全く分からないし、保守団結の会も代表世話人以外のメンバーを私は知らない。だが、"日本のチカラ" 研究会は、昨年11月25日に開催された第一回会合には高市以外では以下の議員が参加したと新聞に掲載されていた。岸田派だった議員はゼロで前安倍派議員が一番多いが、割りと派閥横断的とも言えよう。

杉田水脈、堀井学、山田宏(以上、前安倍派)、山本左近、有村治子(以上、麻生派)、小野田紀美(前茂木派)、高木宏寿(前二階派)、鬼木 誠(前森山派)、石川昭政、三谷英弘(以上、菅グループ)、黄川田仁志(谷垣グループ)、土井 亨(無派閥)。

3グループを合算すると171人だが、重複している人や総裁選で必ずしも高市に投票しない人もいるので厳密な支持者は不明。それでも、この3グループが "派閥は✕の空気" の中で身の振り方を暗中模索している非幹部自民党議員をどれだけ巻き取ることができるかが鍵だ。

これまで自民党にあっては仲間作りで一番有効だったのは "困った人の面倒を見る" という浪花節的アプローチであった。金と人事で面倒を見る訳だから、それが派閥形成の温床になって来た。そこの処で、パー券裏金問題が露見したものだから派閥を解消し、政治資金規正法を改正しようとしているのだが、是非論とは別の現実の問題として、手の平を返したように果たして一切の浪花節はなくなるのだろうか。高市には、人情の機微に対する感度がよく、改正政治資金規正法下において許容される範囲での人間関係構築や政治力学に通じている "政治参謀" が必要ではないか。