最新のJNNの世論調査によれば、岸田内閣支持率が前回の調査から7.0ポイント上昇し、29.8%、不支持率は前回の調査から7.1ポイント下落して67.9%だった。また、政党支持率は、自民党 23.4%(-1.6ポイント)、立民 10.2%(+4.1ポイント)、維新 4.6%(+0.3ポイント)であった。これを新聞などが記事に書く場合、岸田もしくは自民党に対する書き手の立ち位置によって見出しの論調は次の2通り。ややもすると読者はいずれかのリードに乗せられる。

▪岸田肯定派:「内閣支持率 29.8% + 自民党支持率 23.4% = 53.2% だから青木の法則が成り立たない」(→ 政権は倒れまい)。

▪岸田否定派:「圧倒的多数が政権交代を望む」(→ 政党支持率で自民と立民の差が微かに縮まったとは言え、その程度で立民政権を示唆するには差が大き過ぎる)。

逆風の中でも立民支持率は自民支持率の半分にも満たないので、いくら政権交代と言っても立民政権は予想困難だから、岸田・自民政権か非岸田・自民政権かのいずれかだろう。青木の法則が成り立たないと言っても瞬間風速なので、必ずしも9月以降も岸田・自民政権とは限らない。要は、9月までの期間、内閣と政党の支持率がそれぞれどう推移するかだが、変数が多すぎて9月、あるいはそれ以前に政権がどうなるかを合理的に予想することはできない。

最新の世論調査で 7割近くが岸田はダメと言ってはいるのだが、岸田は意外に強い。というか岸田降ろしに動く者がいない。三角大福に象徴される1960年代~1970年代だったら現ナマも飛び交う熾烈な政治闘争が繰り広げられる処だが、今日では大人しいものである。それは、中選挙制から小選挙区制に変わったことや政治資金の管理が厳しくなったこともあるが、最大の違いは、以前は党内重鎮=総裁候補だったが、今日の総裁候補は "small potato化" しているからだ。巷で総裁候補と言われる石破・河野・小泉・上川・高市は重鎮ではないし、派閥の長だった訳ではない。岸田は派閥の長から総裁になったが現役だから横に置くとして、茂木は派閥の長だったし、党内No. 2の現役幹事長だが、党内のみならず派閥内でも人望がないので総裁候補トップ5にも入っていない。なので、いずれの候補も岸田降ろしをしようにも単独ではできない。重鎮の庇護の許で岸田降ろしに掛かると言っても:

▪最大派閥だった安倍派の5人衆はパー券裏金問題で散り散りバラバラ。我が身をどうするかで精一杯で、とても人の面倒をみておれない。中堅・若手はやがて派閥に代わって生まれる政策集団・勉強会の草刈場になりそう。尤も、福田達夫と彼の仲間は一緒に動く可能性はある。

▪現時点で菅と並ぶ最高重鎮の麻生は、岸田が派閥解消を麻生と相談することなく決めたので、岸田との間に軋みが生まれた。また、従来から菅とは所謂ケミストリーが合わず対立関係にある。茂木とは特に問題はないが、肝心の茂木に党内の人望がないため茂木は担ぎ難い。麻生政権のとき閣内にいながら麻生降ろしを企てた石破は、今でも絶対許せない存在である。それで、岸田派ではあったが上川(外務大臣)なら操ることができると考え、上川のアドバルーンを挙げてみた。

▪麻生とも岸田とも合わないもう一人の最高重鎮の菅は、麻生・岸田・茂木の力を削ぐため派閥を根絶やしにし、政治資金を厳しく管理するように動く。従来から河野や小泉の神奈川勢を推してはいるが、河野ではアレルギー反応を起こす者が党内には少なくないし、小泉が弁舌爽やかと言っても現時点で果たして実力が備わっているのかどうか。

▪茂木は党内の支持の前に、小渕(優子)を始めとする8人もが自分の許から去っていったくらいの人望のなさ。現在盛んに中堅・若手に声を掛けているそうだが、泥縄では簡単にはいくまい。

▪僅か8人しかいない森山派の長だった森山は誰ともいい関係にあるが、補完勢力になるとしても党を引っ張っていくタイプではない。

ネットなどでは、岸田辞めろ的な勇ましい言葉が飛び交っているが、上に述べた状況のまま推移すれば意外に岸田は居座るかも知れない。確かにパー券裏金問題で自民党は苦境に立たされているが、冷静に観察すると、裏金問題は岸田一人が引き起こした訳ではないし、何のかんのと言われながらも安倍・菅両内閣が積み残した案件を堅実に成し遂げてきた。総裁候補として巷間人気のある石破・河野・小泉にこれだけの実績をあげ得る人がいるだろうか。

 

後ろから鉄砲を撃つと評される石破や根回しなしに強行突破するタイプの河野に人は付いて行くだろうか。小泉は選挙の応援演説以外で印象に残っているのはスーパーのレジ袋を有料にしたくらいだ。まだ小粒過ぎる。上川は法相として果敢に死刑執行命令を出したことで肝っ玉が座っているとされるが、どういうことを考えているかサッパリ分からない。一方の女性候補は高市だが、しっかりした政治信条・政治路線を持っており、真面目に政策を勉強している。また、ディベートも上手い。私は高市の政治路線と実力を一番評価している。しかし、党内に押し上げてくれる仲間がいるかどうかが最大の問題。

一般の自民党議員は思想や政策はそっちのけで、関心事は「選挙で当選するためには誰の顔で(誰が自民党総裁だったら)選挙戦を戦うのが一番いいか」の一点である。そこからの延長線上には大衆迎合型というか、週刊誌レベルで総裁として人気のある人に収斂されていく。

"本来なら" ここで、政治路線についての確固たるバックボーンを持ってはいるがそれを表に出すことなく、周りの人間関係の機微に配慮したバランス感覚を持った上で、さりげなく伏線を張りながら他人に意見を言わせ、次第に自分が意図する方向に収斂させることのできる人が総裁になるところだが、果たしてそういう人が現れてくるのか。

必ずしも "本来なら" の人ではないが、どうにもならない自民党の現況を鎮める繋ぎ的な役割ということでは、最高重鎮で元総理の麻生もしくは菅という瓢箪から駒がないとは言えない。



とは言え、麻生は既に83歳だから現実的ではあるまい。とすれば、麻生に比べれば若い75歳の菅かも知れない。確かに、菅は派閥の弊害としてのパー券裏金とは無関係で、中途半端な状況の自民党を収めるために必要な経験は十分だろう。だが、「国民への説明やアピールが足りないと言われる菅で選挙を戦えるか」という大きな問題がある。麻生は菅総理総裁に異を唱えるか、それとも、こういう困難な状況での総理総裁は汚れ役であり、それを菅にやらせれば最終的には菅は政治力を失うと計算するか。はたまた、青天の霹靂的に調整型の森山(総務会長)の名前が出て来るか。


国会が閉会になれば動きが表面化すると思われるが、どういう経緯を辿ることになるのか全く見えない。只、私は総裁候補のみならず、麻生と菅、そして森山の言動に注目する。