本日、関脇・琴ノ若が正式に大関に昇進した。日本人大関の誕生は御嶽海以来の2年ぶりで、春場所は1横綱4大関となる。



初場所の琴ノ若は13勝2敗という素晴らしい数字だけでなく、内容的にも負けない安定した相撲だった。その琴ノ若と共に、優勝した照ノ富士、惜しくも横綱を逃した霧島、横綱・大関・関脇との取組以外では1敗しかしなかった新入幕の大の里が、場所を大いに盛り上げた。

だが、その裏で幕内全42人いる力士の中で、以下7人もの力士が休場した。企業的な表現をすれば、何と欠勤率は16.7%だ。

・豊昇龍:    14日目から休場
・貴景勝:    4日目から休場
・朝乃山:    9~12日目まで休場
・北勝富士:9日目から休場
・高安:     3~5日目及び中日以降休場
・碧山:       7日目から休場
・北青鵬:    6日目から休場

調べた訳ではないが、企業での欠勤率は2%未満だろう。3~4%のところもあるかも知れないが、末期症状にある企業を除けば二桁の欠勤率はあり得ない。とは言え、相撲は体と体をぶつかり合うのが仕事だから、企業の従業員と同列に論じるのは合理的ではあるまい。何しろ、体重150kgの力士同士がぶつかったときの衝撃力は2トンのダンプカーが突っ込んで来る時と同じなどと言われる。このとき、ぶつかったときに受ける圧力は〔圧力 = 衝撃力 ÷ 接触面積〕だから、接触面積が小さければ小さいほど、その一点にかかる圧力は高くなる。頭と頭でぶつかって脳震盪を起こすこともあるが、よく頭蓋骨が割れないものだと思う。頭で当たる相撲を取る貴景勝が首の脛椎を傷め、慢性化しているのも頷ける。

他にも、大きな相手が怒涛の勢い押してきたとき俵に足を掛けて堪え、体を捻って相手を突き落とす場合は捻った状態の腰に相手の〔質量 x 速度〕の負荷が掛かっている。また、土俵上で相手に内掛けをかけたときに大きな相手がのし掛かってきて、そのまま後ろに倒れ込んだ場合は、足を不自然な形に捻った状態のところに相手の〔質量 x 速度〕がのし掛かるのである。こういうこともあって足腰に問題を抱えている力士はたくさんいるだろう。



このように相撲は "過酷な職業" だからこそ言うのだが、ここ20~30年の相撲界は小兵力士もいるものの大型力士が増え、同時に昔  ー  例えば栃若時代の昭和30年代よりも相撲が速くなっている。〔相手に与える力 = 質量 x 速度〕は飛躍的に大きくなっているので、より怪我に繋がりやすくなっている。

私は何を言いたいのかと言うと、大型化・高速化した力士・相撲を "相撲の近代化" と称すなら、「怪我を防止するための稽古内容・体の鍛え方・食事内容、怪我のケア、怪我にも関連する生活パターンなども "近代化" しているのか?」という疑問を呈したいのである。

これまでの伝統的な股割り・腰割り・四股・鉄砲など力士の準備運動やぶつかり稽古・申し合い・三番稽古などの稽古は "近代化" のために必要にして十分かということである。また、部屋での食事メニューはちゃんこ番と女将が相談して決め、部屋によっては栄養士の意見も取り入れていると理解しているが、すべての部屋が "近代化" していると言えるのかである。更には、力士が怪我をしたとき、盲目的に或いは根性主義で「怪我は稽古で直せ」と言うのではなく、怪我の状態を医学的に適切に判断し、治療・休養させているか、という問題である。例えば:

・怪我をしないための稽古や体作り
・怪我をしない相撲の取り方
・下半身強化通じた上下半身の均衡
・筋肉強化と柔軟化を意識した稽古
・筋肉強化と体を柔軟化に対応した食事
・体のphバランスを考えた食事
・怪我したときの医学的ケア
・公傷制度の再導入

二所ノ関親方(元稀勢の里)や安治川親方(元安美錦)のように早稲田大大学院スポーツ科学研究科で学んだ親方もいるが(大栄翔も現役力士のままで通信制の日大大学院で勉強したが、専攻は総合社会情報研究科の国際情報)、力士の健康・怪我・食事などは全面的に各相撲部屋に委ねられていると承知している。ということは、部屋や親方によって意識の高さに違いがあるということ。

相撲協会はガバナンス、年寄株、暴力など多くの問題を抱えているが、力士は協会の最も重要な資産なのだから、協会が率先して力士の怪我を防止し、力士が怪我をしたときの適切な対応に取り組まなければならない。協会の理事それぞれは、相撲の指導普及、生活指導、本場所運営事業、巡業、審判、広報、相撲博物館などを管掌しているが、そこに総合的な怪我防止対策も加えるべきだ。それは指導普及や生活指導にも関わるので、横串的な機能すべきであろう。