オレたちが向かった先で女性のスタッフさんが立っていた。
「あっ!!来たっ!早く早くっ!!」
「あの・・・ごめんなさい。オレ、着替えを置いて来ちゃって・・・」
正直に伝えて頭を下げた。
そうしたらその人は何も言わず、一目散に駆けて行って、ものすごいスピードで戻って来た。
「衣装、ハイッ!すぐこれに着替えてっ」
ゼーゼーと息を切らしながら差し出されたのは彼女の両手で、そこには衣装が二着。
えっと、どっちを着ればいいのかな。と戸惑っていたら。
「えっ、いや、俺は・・・」
櫻井くんが何か言おうとしたのに、そのスタッフさんはいきなり大きな声を出して櫻井くんに飛び掛かった。
ヒ、ヒエエエエエエエー!このスタッフさん勇気あるーー!!
櫻井くんにこんな事出来る人、事務所の先輩以外で今まで見たことないんだけど!!
櫻井くんも相当びっくりしたみたいで、無抵抗でされるがまま着ていた服を脱がされ、新しい衣装をズボッと上から被らされてそこで放置された。
そしてくるりとオレの方を向いたスタッフさんが両手を上げたから思わず同じように真似をしたら、そのままスポンと衣装を着せられた。
「おいっ!準備まだか!?早くしろっ!時間ないんだぞっ!!」
「ああああああっ。はいいーーっ!!すみませんっ!すぐっ!すぐ行きますっ!ほらっ二人とも急いでえええー」
突然、男の人の怒鳴り声がして、え?と見上げようとしたらスタッフさんに二人して背中を押され、櫻井くんはまだ着替え終わってもいないのに無理矢理階段を上らされ、あちこちぶつけていた。
なんとか上り切った先でカズたちの姿を見つけてホッとしたのも束の間。
「遅い!!たかが着替えにいつまでかかってんだ!」
「ひっ・・・。ご、ごめんなさい」
「すいませんでしたっ」
知らないオジサンにいきなり怒られ、めちゃくちゃビビった。
櫻井くんはすぐに頭を下げて、オレもそれに続いて頭を下げた。
「さっさと位置について。時間押してるから10分は巻かないと間に合わないぞ!!空撮本番用意っ」
「はい!」
オジサンは偉そうにずっと怒鳴ってるのに、スタッフさんは誰も文句を言わないで仕事をしてる。
みんなすごいなあ。オレなら泣いちゃうかもしんない。怖くて。
こんな怒鳴ってばっかの人、オレなら一緒に仕事すんの嫌だなあとか、みんなこの人のこと怖くないのかなあとか、この人いつも怒ってんのかなあ、疲れないかなあとか色々考えてたら、いつの間にか周りに人がいなくなってた。
「じゃあみんな自分の立ち位置覚えてるかな?そこでしばらくポーズ取って下さい。それから、こっちの船で合図を送るので、その時は船の方を見て手を振ったりアクション取ってください。その後、ヘリの方にもカメラがあるのでそっちを見るように合図が出たら同じように手を振ったり何らかのアクション取ってください。出来れば笑顔で」
「はい」
一人残っていた若いスタッフさんが丁寧に説明してくれる場所を一つずつ確認していく。
視線の先にいるスタッフさん達が笑顔で手を振ってくれて、オレたちも同じように手を振り返す。
「二宮くんは、・・・大丈夫かな?」
「ああ・・・。ハイ。たぶん」
ぐったりは相変わらずだけど、カズも着替えたようで衣装が変わっていた。
「もしまた気分悪くなったら、そのまま海上に吐いちゃって。じゃあ僕が降りたらキュー出すので合図が出るまではまっすぐ前を見ていてね」
オレたちの準備が出来たことをトランシーバーで報告して、このスタッフさんも階段を下りて行きここにいるのはオレたち五人だけになった。