「・・・あのね、しょーちゃん。・・・オレ、まだお別れ言えてないんだ。あんなにいっぱいお世話になったのに、会えなくて・・・、お礼も、何にも言えてな・・・」

 


言葉を詰まらせ、背中の手が震えている。
 

 

「収録が延びたって連絡受けた時は、まさか感染してるなんて思ってなくて・・・、そしたら、今度は、急変してあっという間だったって言われて・・・。それで、それで・・・っ、まさか、会わせてもらえないなんて、オレ思ってもみなくて・・・、テレビで観て初めて知ったんだ。身内でさえお別れさせてもらえないなんて・・・。あんな・・・、あんなさぁっ、物みたいな扱い・・・っ。お別れも言えない別れなんてダメだよ、なんであんなに優しい人がこんな・・・、こんなことって・・・っ」
 

「うん・・・」
 

 

俺の胸に顔を埋め肩を震わせる雅紀を宥めるように頭を撫でる。
 

 

この病気に対する情報は圧倒的に不足していて、感染能力の高さが相当なことや重症化しやすい人の病歴にある共通点などが少しずつ分かり始めたところで、この病気で亡くなった人の体内に残るウイルスの感染能力については詳しくは分かっていない。


その為、一般的な引き渡しが出来ず感染対策として遺体は特殊な加工のされた袋に収容し開封しないこと。
感染リスクへの対応として防護服等を着用し衛生管理を徹底すること。
出来る限り日を置かずに火葬することが望ましいことなどが挙げられている。


今回も例に漏れず、彼の兄弟は最期の時も立ち会えず、姿を確認出来ないまま遺骨となって帰されてようやく彼と会うことが叶った。


その時の様子はテレビで放送され、多くの人が衝撃を受けた。俺や雅紀もその内の一人だ。

 


「しょーちゃんから連絡が来た時、目の前が真っ暗になったよ・・・。まさかって。オレは、大事な人を二人も亡くすの?あんな思い二度としたくないのに、なんでって。でもしょーちゃんは、まだそうと決まったわけじゃないって、万が一を考えてだからって言ってくれて、一番不安なのはしょーちゃんなのにオレがテンパったせいで気を遣わせちゃって・・・」
 

 

ぐしぐしと目を擦りながらそう言った雅紀の髪を何度も梳いて、さらさらの髪にキスを落とす。
 

 

「・・・目処が立ったらさ、会いに行こうな。線香あげさせてもらおう」
 

「・・・うん」
 

 

落ち着いてきたのか、繰り返し髪を撫でている内に胸に重みを感じ、定期的に吹きかけられる息がこそばゆかった。