口許を滑る雅紀の手の上に自分の手を重ねる。
「なあ、雅紀。なんで今日はこんなに顔触んの?いつもはここまで触んないよな」
そう言うと慌てて目を逸らして手を引っ込めようとするから、手首を掴んで捕らえて顔を見つめながら四本の指の腹にキスをする。
一向に俺が視線を外さないからか、雅紀は観念したように目は合わさないままでぼそぼそと喋り始めた。
「・・・あれは、その・・・、
なんかさ、今までは、なかったじゃん?
ヒゲ。
・・・だから目を閉じるとさ、
その、なんて言うか、
しょーちゃんじゃないみたいで・・・、
なんか違う人としてる?みたいな感覚でさ。
・・・でも俺の体に触れる指とか手とか、触り方ってのは、いつものしょーちゃんなんだよね」
俺の指と雅紀の指を交互に絡めて握ってみたり、雅紀の指の腹で手の甲を撫でられたり、俺の手を取って自分の頬に当ててみたりと、
どこか落ち着かない様子で手遊びをしながら雅紀は話し続ける。
「・・・でもヒゲが当たると、
やっぱなんか違うってなっちゃって、・・・ゾワゾワしちゃうんだよね。
・・・で、結局誰だか分かんなくなって怖くなって目を開けて、
ああ、しょーちゃんだって確認してた。
いつもとは違うけど、確かに今俺はしょーちゃんに抱かれてんだって安心する為に、無意識で触ってたみたい」
もしかして触られるの嫌だった?ごめんねと目を合わせて謝る雅紀に、大丈夫と首を振る。
「雅紀・・・。俺も、嬉しい。すっげぇ幸せ」
「ほんと?なら、良かった」
体を重ねたのはたった一回。なのに、ものすごく満たされた気がする。
長い時間をかけたわけじゃない。むしろ持たなくて、早過ぎたんじゃないかと心配になるレベル。
だけど雅紀はちゃんと感じてくれた。
「俺」が雅紀のナカに入った時、ぎゅっと包みこんでくれて、迎え入れてくれた。俺がここに帰って来ることを待っていてくれていたんだと感じた。
飢えていたのは体だけじゃない。心もで。
雅紀を抱いたことで俺は渇きを潤し、俺に抱かれたことで雅紀は誰にも言えなかった不安から解放されたんだと思う。
それは泣きたいぐらい嬉しいことで、そう思えることは当たり前ではないとても幸せなことなんだと気づかされた。
この温もりは二度と失くせないものだと、改めて強く抱きしめると、同じように雅紀の腕が背に回り抱きしめられた。