こんなに手応えのないキスはいつぶりだろう。

 


想いを返してもらえないことに寂しさと虚しさが入り混じる。

 

 

それだけこの眠りが深いということ。

 

 

 

名残惜しくも、ゆっくりと唇を離した。
 

微かに開いた濡れた下唇に親指を這わせ、真ん中の辺りを軽くつまんでじっと様子を見ていた。

 

 

 

「・・・ん、ぅ」
 

 

指を離すと、それまで閉じられていた雅紀の目がうっすらと開いた。
 

 

「う・・・?あぇ・・・?しょー・・・ちゃ・・・?」
 

 

まだ完全に覚醒はしていない感じで、ウトウトと覚醒と微睡みの間を揺蕩っていて、

ゆっくりとしたスピードで目を開けたり閉じたりを繰り返している。
 

 

 

何度、目にしてもこのほわほわ漂っている時の雅紀は可愛くて、自分の目尻が下がっている自覚は十分にある。
 

 

堪らず、こめかみや頬など唇以外の場所にキスを落とした。
 

 

その度に雅紀はくすぐったそうに肩を竦めた。
 

 

「くふふっ。オレ、夢見てんのかなあ。ヒゲの触感までリアル。ヒゲがある人とキスするとこんな感じなのか」
 

 

チクチクでザラザラだーと楽しそうに、どこか嬉しそうに雅紀は目を瞑ったまま笑う。
 

 

 

 

 

「本物のしょーちゃんとキスしてもこんな感じなのかな」
 

 

 

一瞬、泣いているのかと思った。
 

 

だけどそれは俺の見間違いで、雅紀は泣いてなかった。
 

 

ただ、儚く笑って一言、俺の名前を呟いた。
 

 

そしてまた眠りの世界に落ちて行きそうになるのが分かって、慌てて引き留めた。
 

 

行って欲しくなくて。
 

 

俺はここにいるのに、夢の中の俺を求めて欲しくなくて、唇にキスをした。
 

 

さっきは躊躇した舌も深く絡めた。
 

 

 

 

雅紀。
 

 

 

 

雅紀。
 

 

 

 

反応がなくても諦めずに粘り強く繰り返した。
 

 

最初は無反応だった雅紀の舌が、何度も繰り返す内に、ぴくりと動いた。
 

 

舌先がぴくりぴくりと俺の動きに呼応する。
 

 

段々覚醒してくるのが分かる。
 

 

 

雅紀。
 

 

 

 

雅紀。
 

 

 

 

雅紀。
 

 

 

それまで俺に委ねられていたままだったものが遂に自ら動き出した。
 

リアルな熱を持ったそれが口内でうねうねと絡まり合う。
 

 

 

 

「・・・んっ、・・・ふ・・・?・・・ッア、しょ、ちゃ、ホン、モノ?」
 

 

うっすらと目を開けた雅紀は半信半疑な様子で、キスの合間に言葉を紡ぐ。
 

 

「さあ?どうだろうね」
 

 

この時、ふふっと笑った俺の姿は雅紀にさぞ妖しく映ったことだろう。
 

 

こちらの世界へ引き戻せたことに喜びを感じ、貪り、喰らい尽くすようなキスをする俺に、瞳を潤ませ必死にしがみつく雅紀が愛おしくて仕方なかった。