雅紀の住むマンションから少し離れたコインパーキングに車を停めて足早に向かい、親しき仲にもなんとやらで一応エントランスのインターホンで呼び出してみたけど応答がなく、勝手知ったるマンションのオートロックを自分で解除。

 


合鍵を以前に雅紀から預かっていたけど、まさかこんな風に使う日が来るなんてな。
 

 

家に着いてもう一度インターホンを押すも反応はないし、携帯にかけても留守電に繋がる。
 

 

仕方ないと鍵を開けて玄関をくぐった。
 

 

「相葉くーん。お邪魔するよー」
 

 

内から鍵を閉め、靴を脱ぐ前に声をかけて見たけどやっぱり無反応で、上がり込んでもリビングには人の気配がない。
 

ここで電話してたと思ったけど違ったのか。
 

ここにいないと言うことは・・・。
 

 

慣れた足どりで向かうのは寝室に使われている部屋。
 

半分開いたドアから遮光カーテンが引かれて暗い寝室と、ベッドの上でうつ伏せになっている雅紀らしい人影も見えた。
 

 

「雅紀・・・?」
 

 

入口で声をかけても返事はない。
 

 

「入るよ・・・」
 

 

ゆっくり近寄ってベッドサイドに立つ。
 

 

 

雅紀は伸ばした右腕を枕にして眠っていた。
 

 

長い前髪が愛しい人の面を隠している。
 

 

ベッドの端に座り、髪を耳にかけるといつも見惚れる綺麗な顔が露わになる。
 

 

いつも艶やかな黒目がちな目は閉じられている。
 

 

頬には泣いて乾いた涙の跡が幾筋も。
 

 

どれだけ泣いたのか・・・。
 

 

 

ここに来る前にマネジャーから聞いた話を思い出す。
 

 

俺の心配をしている雅紀が日に日に衰弱していったこと。

 

目の下のクマが日に日に濃くなっていき、夜もろくに眠れなくなっていたこと。
 

心配した雅紀のマネジャーやメンバーが口を出しても、平気平気と笑ってあしらっていたと聞いた。
 

その反面、誰かを失うかもしれない恐怖と日夜一人で闘っていた。さぞ怖かっただろう。
 

 

 

「ごめんな」
 

 

こめかみに触れるだけのキスをして、ゆっくり離れた。
 

 

「ん・・・」
 

 

寝返りを打ち、仰向けになる。
 

 

固く閉じられた瞼と薄く開いた唇。
 

 

二人きりの薄暗い部屋。
 

 

このシチュエーションはここで幾度となく行われた情事を思い出させるには十分過ぎて。
 

 

思わず恥ずかしくなり、自分の口を掌で隠した。
 

 

だけどまるで吸い寄せられるように雅紀の唇へ、再び自分の唇を重ねていた。
 

 

「う・・・ン」
 

 

隙間から甘い声が漏れる。
 

 

そう言えばこんな風に触れることすら随分ご無沙汰だった。
 

 

気づいた時には既に手遅れ。
 

 

吸いつくような唇の柔らかさに最初は触れる程度だったものが、どんどん深くなっていく。
 

 

最終的には頭を抱えてガッツリ舌も差し込んでいた。
 

 

その間もずっと眠っている雅紀から甘い声は出続けている。
 

 

 

 

耳が、侵食されていく。
 

 

 

もっと聞きたい。ずっと聞いていたいと、耳を伝って脳まで侵していく。
 

 

「はァ・・・ン」
 

 

何度でも聞かせて。まるで蜜の味みたいに蕩けるその声を。
 

 

「雅紀」
 

 

一度唇を離して、未だ眠り姫なままの寝顔を見つめる。
 

 

額から頬へとフェイスラインをゆっくりなぞるように手で撫でて、離す。
 

 

愛おしくて、どうにかなってしまいそう。
 

 

 

アイシテル――――――。
 

 

 

言葉にはせず、右手でそっと頬を包み、もう一度キスをした。