国内での初感染が報告されてから日を追うごとに都内の感染者もその数を増やし、外出自粛が囁かれ始める前、事務所から無症状の感染者の可能性も考慮して不特定多数の人との接触は避け、感染源になりそうな場には近寄らないようにと伝達された。

 


基本的には仕事を終えたら現場には残らず、可能な場合は自宅へ直帰すること、食事も出来るだけ自宅で食べるように自然とするようになっていた。

 


現場でも密にならないようにアクリルパネルを利用したり、別室からのモニター出演だったり、出来る限りソーシャルディスタンスを取るように工夫した。

 

 


毎日の検温と月に二回以上の自主検査をして自分が感染していないことを確認はしていたが、それでも何度かヒヤリとするタイミングはあった。

 

 


ある日、いつも通り自宅で過ごしている中なんとなく体調に違和感を覚え、検温してみればさほど高いわけではなかったが、それでもいつもよりはすこし高めだった。

 


他に症状がないとは言え、その瞬間は一気に血の気がひくような感覚がした。

 


仕事をして、外出をしている以上、感染者と一切接触がなかったとは言えない。
 

 

もしもこれがそれに該当するとすれば、潜伏期間から逆算するとその時期に接触のあった人は…とか、発症するまでに自分が接触した人を思い出し、そこから派生する人数を概算してみたり。
 

 

 

 

何より、4人に多大な迷惑をかけてしまうことに身が竦んだ。
 

 

万が一感染していた場合、治療に要する期間や重症度など完治までの未確定要素が多すぎて復帰の目途が立たなくなったら、今までの努力が全て水の泡だ。
 

 

それに他で番組を持たせてもらっているメンバーもいるから、もしも自分が感染させてしまっていたらそこで共演している方やスタッフにも迷惑をかけてしまう。
 

 

改めてこの病気に感染することで及ぼす影響力を思い知らされた気がして、ゾッとして思わず胸元を掴んだ。
 

 

 

…とにかく、マネジャーに連絡を入れないと。
 

 

 

事と次第では彼もメンバー以外で唯一の濃厚接触者に該当するだろう。
 

 

急いでポケットからスマホを取り出して履歴から彼の名を見つけ出しタップする指が震えていた。
 

 

何度かのコール音の後、聞き慣れた声がした。
 

 

 

「…あ、櫻井です。今、電話大丈夫?…あの、実は…」