唸るような声と共に胸の辺りに熱いものが吐き出されているのが服越しに分かった。
肘でカズの肩を固定して、両手で自分の服の裾を強く握った。
吐いたものがカズの顔に当たらないよう、少し裾の方にゆとりを持たせて空間を作った。
「なんだ!?どうした?」
「え?!誰?二宮くん!?」
「吐いちゃった!?」
「誰か袋持って来て!」
異変に気づいたスタッフの誰かが言った途端に周りが騒がしくなった。
オレはカズを抱きかかえしばらくそのままにして、動かなくなったのを確認してから声をかけた。
「・・・全部出た?」
「・・・」
コクリと頭が動いた。
「・・・もう出ない?」
「・・・」
またコクリと動いた。
さっきまでのダルそうな動きとは違って、だいぶ楽そうに見えた。
「袋持って来ました!」
「二宮くん、少しだけ口離せるかな。こっちの袋持とうか」
駆けつけたスタッフの人にゆっくりとカズと離されて、オレは受け止めたものを床に落とさないように掴んでいた裾を握り直した。
カズがあんなに必死で我慢したのに、俺が汚しちゃったらシャレになんないからね。
「相葉くんはとりあえず着替えてこようか」
そう言われて初めて気がついた。オレ、衣装を着てたんじゃん。自分の服じゃなかったじゃん。
「あ・・・っ。ご、ごめんなさいっ。オレっ、慌てちゃって。船汚しちゃいけないと思って・・・」
あの時のカズの顔見たら、私服じゃないこととか、衣装だったとか全部吹っ飛んで、とにかくカズを吐かせなきゃ、ってことで頭がいっぱいになってた。
「うんうん。仕方ないことだけど、次から気をつけてね。おーい、誰か手が空いてる人、着替え付いてあげてー」
「まーくん。ごめ・・・」
背中をさすられながら虚ろな目でカズがこっちを見た。
「いいよ。大丈夫だから。こっちこそ怒鳴ってごめん」
カズは悪くない。それよりオレが大きな声を出したから怖がらせた。カズの限界にもっと早くオレが気づくべきだった。
「・・・あ。呼ばれたみたい。行ってくんね」
涙目でオレを見てるカズの姿が辛くて、誰かに呼ばれたフリをして急いでその場を去った。