「では、これにて嵐の五人は退場となります。今後の活躍に期待ですね。この後ですが、皆さま方にはジャニーズ事務所より、船室内にて軽食をご用意しておりますので宜しければご利用ください」

 


拍手の中、退出した俺たちは用意された部屋まで戻ると、思い出したかのように疲れが押し寄せた。
 

 

「うああああー、終わったああー!」
 

「疲れたあ」
 

「はあー」
 

「・・・・・・・」
 

 

さっきまで精神的にいっぱいいっぱいだった俺たちは解放感から一気に、喉が渇いたジュースが飲みたいだの、脚が痛いだの、ソファーに突っ伏したり、言いたい放題やりたい放題だった。
 

 

インタビュアーが質問をして、誰かがそれに答えるたびにマイクとカメラが一斉に向けられて、視線も集中する。
 

今までは十把一絡げだった俺たちが個々にクローズアップされるなんてのは本当に初めてのことで、そこには独特の空気感があり、自分が注目されているのだと自然と高揚していくし、どこか現実味もなくフワッフワッと浮ついてもいて、本当に何とも言えない気分だった。
 

その勢いのまま部屋に用意されていた食事に手をつけるもんだから、制御も何もあったもんじゃない。
 

興奮気味で俺たちは夢中になってがっついた。
 

カズは船酔い継続中だから殆ど言葉も発さず、ひたすら目を閉じ不意に襲って来る吐き気と闘っていた。
 

その傍らにはやっぱり『相葉雅紀』がいて。
 

 

暫くしたら、あれこれ飲み食いしていた潤が気持ち悪いとか言い出して、つられるように智くんまで酔いだして、最終的には着岸間際で『相葉雅紀』までもが船酔いしてカズと共に横になっていた。
 

やっぱりコイツらはニコイチなんだななんて思っていた。
 

 

「おかえりー!!」
 

「おつかれさま」
 

「おめでとう」
 

「立派だったよー」
 

「あ、ありがとうございます」
 

 

船が港に着いて下船すると、ホテルに残っていたスタッフ達が拍手喝采で出迎えてくれて、記者たちのお愛想の拍手とは全然違うように感じた。

 

 

そんな中。
 

 

「あーーいーーばーーーーっ!!!」
 

 

社長がものすごい形相で突進して来るのが見えた。おじいちゃんだからそんなに足は速くないんだけど、勢いがすごい。
 

 

「ひ、ひえっ!?」
 

「YOUーーーっ!!あれほど練習したのになんでちゃんと言わないのっ!!ちょっと来なさい!」
 

 

ガシィッ!!と『相葉雅紀』の首をロックしたかと思うと、そのままどこかへ連行していってしまった。
 

 

「な・・・なんだ?あれ」
 

「あー・・・、やっぱ、まー言えてなかったんだ」
 

 

呆気に取られた俺の肩にそれまで凭れ掛かってた潤が顔を上げた。
 

 

「え?何か言い忘れてたのか?あいつ」
 

「俺も全部憶えてるわけじゃなかったけど、まーがホテルで練習してた時よりセリフが短いなと思ってたんだよ。だから、あれ?あんな短かったっけと思ってたんだけど」
 

 

俺があの時見た潤の表情はそういうことだったのかと合点がいった。
 

 

それからしばらくして『相葉雅紀』はヘロヘロになって帰って来て、その後の情報番組の中継ではちゃんと自分の口で「世界中に嵐を巻き起こしたい」と言えていた。